Vacant/Edition #2 Polylog / 著者・永井祐介 / VACANT
空間が場になる時
面影 book&craftの実店舗をオープンして5年目に突入した。
改めてwebのaboutページにオープン当初の思いで綴った文章を見返してみると少し小っ恥ずかしい気持ちと、「そうだそうだ!いいぞ!いいぞ!」と思う気持ちの両者が入り混じり少々複雑な気分になる。
その文章を引用しようかと思案したけれど、それはこの文章を読んでいる方に判断を委ねるとして、そこで書かれていて今でも大切なキーワードがあるのでそれだけを引っ張り出してみたい。
一つが「心の中に映る風景」というと言葉。二つ目がそれに続く「共に編む」という言葉。この抽象度の高い二つの言葉を合わせて今考えてみると言わんとすることは、「心を通わせ合う」ということなのだと思う。こうして字面で見てみると、そうなんですね、と納得できるのだが、実際これを現実にカタチにするとなるとなかなか困難極まる。第一、人の心をコントロールできるだろうか、自分の気持ちすらコントロールが難しい我々には、意図して「心を通わせ合う」というその境地に至るまであと何世紀、どのくらいの時を重ねればいいのかと途方に暮れてしまうことだろう。
けれど、ショップを5年ほどやっている間にそういう心を通わすということがお客様同士で自然発生的に生まれた瞬間などにで出くわす場面が多々あるのだ。お店側としてはただそこに物質的な何かを配置して状況を作っているだけなのだが、その状況に引き寄せられた同士が作用し合うという、未だ現象名が付けられていないような現象が立ち現れそして起こるのだ。
さて、同じくそのようなことを先んじて考えているのが、東京・代々木八幡にある創造的スペース・Vacantだ。そしてこのVacant主宰の永井祐介さんがこの未だ現象名がついていないこの現象について真っ向から探究しているのが、本書のシリーズの『Vacant/Edition』なのだ。Vacantが日々の営みやエキシビジョンをアーカイブしながら、新たに掲げる〈文化空間学 / Cultural Placeology〉について思考を深めていくための出版プロジェクトで創刊号『場のはじまり/Placeology』に続く第2号のテーマ “Polylog”。この言葉は永井さんが作ったで“Polyphonic(多層的)” と “Dialogue(対話)” を掛け合わせた造語だ。まさに文化の大切さを確かめ合う“文化的対話”の場をひらくための言葉なのだ。
この本書のプロローグで書かれている基本的な考え方の部分を読んでまさしく冒頭の現象を空間、場、記憶、風景というキーワードと図解によって端的に可視化そして分析されていて、ついつい感嘆のため息が出てしまうほどだった。同時に同じことを考えている同士がいるという喜びに心が動かされてしまったのだ。
文化空間学とはある空間を特定の場に変容させる文化的なモノやコトとその関係性(本書基本理念より)
展覧会をつくる過程で、作家との対話は欠かせない。その対話は、日常の会話や正しさを求める議論とは異なり、利害を超えた対等で開かれた関係性のなかで、互いの存在や経験に静かに耳を澄ませる営みである。(本書序文より)
2号目となる本書は、Polylogの実践として、これまでに Vacant/Centre で展示を開催してきた6名の作家と、Vacant主宰の永井祐介が共に展覧会を振り返りながら、「場」がどのように立ち上がってきたのか、そのプロセスを辿る6つの対話を収録している。
読み進めてみると、主宰の永井さんと作家さんたちとの対話の行間から滲み出てく る言葉は生きた実践者たちの本質として感じ取ることができるはず。人がなぜオブジェクトやアートを鑑賞した際に、こころの中に風景が生まれるのか、またそうした空間はどのように立ち現れるのかといことについて実践者の目線で語られている。
「これは面影 book&craft のバイブルだ」と胸を張って言いたい。
空間、場づくりに興味がある方は必読の一冊。
〈収録内容〉
1. 文化空間学 #2「文化」/ Cultural Placeology #2 “Culture”
永井 祐介 / Yusuke Nagai
2. 存在することの醍醐味 / The Delight of Simply Existing
牧口 英樹 / Hideki Makiguchi
3. 隠れた美しさについて / On the Quiet Radiance of Hidden Beauty
ヨン・ココ / Jon Koko
4. 日々とつくること / Living and Making as One
明主 航 / Wataru Myosyu
5. 写真を撮ることの確かさ / The Certainty of Taking a Photograph
佐内 正史 / Masafumi Sanai
6. 持ち帰ってきたもの / What She Brought Back from Her Journey
ベック・ヒョワン / Hyoweon Baek
7. 旅の途上に / Along the Journey
大橋 和彰 / Kazuaki Ohashi
Vacant
ある空間を「場」へと変容させる、文化的な営みの考察と実践のため、2009年に東京・原宿にプロジェクトスペース「Vacant」をオープン。10年間の活動を経て2021年に新たな拠点「Vacant/Centre」を設立。Centre/Multiple/Worksを活動の軸として、多様な「場づくり」(=Place Design)を進める。
Centreは東京・代々木八幡神社近くに位置するVacantの活動拠点。自社設計の本棟5フロア/別棟2フロア内の、Vacantのアトリエを含むさまざまな用途のスペースで、多様な「場」が醸成していく活動を行っています。オープンデイと各イベント開催時のみご来場頂けます。
MultipleはVacantのオリジナルプロダクトレーベル。家具や服、小物など、そのモノをつかう・着る・飾る時に生まれる「場」に想いを馳せながら制作しています。現在は不定期開催の受注会での販売を基本に、限定数をオンラインにて展開しています。
Worksがおこなうクライアントワーク、その他の活動を指します。プロジェクトに応じて空間/プロダクト/グラフィックデザイン、キュレーションなどを横断的に扱いながら、特有の「場」を構成することを目指します。










