言葉をもみほぐす / 著者・赤坂憲雄、藤原辰史 / 岩波書店
言の端
取材などでインタビューをする機会が仕事柄多いのだが、インタビューが終わった後によく自分の頭の中が整理されたような気持ちになるとか、今まで考えたこともなかった場所から自分が紐解かれたようで恥ずかしいということを言われることがある。
確かに通り一辺倒な質疑応答に終始するようなことは天邪鬼な性格上避けたいと思っているけれど、やれ相手の頭の整理をしてやろうとか、今まで考えていないであろうことをぶつけて困らせてやろうなんてことは、もちろんだが毛頭思っていないのだ。そこにあるのは純粋に他者の感覚を知りたいという思いに正直に言葉を投げかけ呼応していく中で浮かび上がったその人なりの個性を抽象化して提示しているようなもので、そこにあるのは、あくまでどこまで行っても僕から見た他者の姿なのだ。その投げかけというものは意図的なものではないけれど、全く意図がないわけでもない。こうすれば相手の感覚にタッチできるだろうという何となしの直感に従いその端くれに触るような言葉を投げかけていくのだ。
そんなことを思い起こさせてくれたのが本書『言葉をもみほぐす』だった。
民俗学・歴史学という各々の専門分野からの越境を厭わず、知力をふり絞り、引き裂かれながら現実に向き合う本書の著者の赤坂憲雄さんと藤原辰史さんの二人。同時代をともに生きてあることの歓びを感じながら、言葉を揉み、解し、思索を交わした、2019年から2020年にかけての18通の手紙を、銀板写真とともに書籍化した一冊。
お違いに対する純粋な知りたいという好奇心が往復書簡の中から滲み出てくるのを感じることだろう。
この期に及んでなおも言葉の力を信じて。
言の端をたどる往復書簡。
<目次>
それでもなお言葉の力を
深い海の底から
標準語との距離感について
俺の人生を聞きにきたのか
土壌と人間
汚れた土のゆくえ
引き裂かれつづける
異形の場所からモノへ
泥の歴史学
傷を記憶すること
あとには戻れないならば
見えない政治に抗うために
こぼれるということ
原発とキツネが対峙するとき
もののけのたぐい
それはだれのものか、と問う声がする
次の世代、子孫のために
撤退の時代だから、そこに駒を置く
赤坂憲雄
1953年、東京都生まれ。専門は民俗学・日本文化論。学習院大学教授。『岡本太郎の見た日本』(岩波書店)でドゥマゴ文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞
藤原辰史
1976年、北海道生まれ、島根県出身。専門は農業史。京都大学人文科学研究所准教授。『ナチスのキッチン』(水声社、のちに決定版=共和国)で河合隼雄学芸賞を、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞