(un)cured vol.1 / くわくわ企画
こころを解きほぐす
生まれてきてから自分とずっと一緒にいてくれるのは、両親でも兄弟でも、恋人や友人でもなく、「わたし」だ。この「わたし」という存在について考えてみることはあまりないかもしれないだろう。気付かぬうちに物心がつき、その時には保育園や幼稚園の和の中にいて、その後は学校教育というある種の“檻の中”の社会の中で自己を形成がなされていく。
環境というものが自分に対して多大なる影響を与えるのであれば、その小さな社会の中で出来上がった「わたし」なんていうものは自分というものの一部に過ぎないはずで、もっと異なる環境にいたら自分の中の別の側面が表に出てくるはずなのだ。こう論じてみると、環境要因によって結果が変わることとして、土の中の雑草の種の関係に似ているような気がする。ものの本によれば、土の中には無数の種が存在しており、その土が地上地下含めどのような環境や状況なのかによって発芽してくる雑草が変わってくるとのことだ。
いい大人になった今だからこそ、もう一度自分のこころを時ほぐし、本当の「わたし」いや、「わたし」という無限の可能性を見つけていきたい。
さて、そんなことを感じたのは、本書『(un)cured vol.1』に出会ったからだった。「自分の心身に振り回されている人のためのカルチャー・健康マガジン」として2026年3月に創刊されたカルチャー誌の創刊号。
「自己管理」という言葉のもと、心身の状態が安定していること、常に健康であることが、社会で生きていくための必要条件のように扱われる現代において、実際は、多くの人が心身のゆらぎを抱えたまま生きている。そんな中、本誌は、そうした状態を例外ではなく前提と捉え、文化・思想・医療の視点から「健康」を問い直すことを目指す「カルチャー・健康マガジン」として世に問いを投じる。
映画、音楽、文学、医療、社会思想など多様な領域の書き手・話し手が集まり、強制される健康ではなく、自分のための健康のあり方・目指し方を見つめ、自分の心身とともに生きていく方法を考えている内容がまとまっている。それは決して答えではなく、自分自身が自分自身の答えに出会うためのきっかけを本書が提示してくれているのだ。
世の中が提示してくる健康ではなく、自分にとっての心身ともに健康とは何なのかを考えたくなる一冊。
▼収録コンテンツ
【インタビュー・対談】
・成長以外も生である──『ナミビアの砂漠』監督インタビュー
山中瑶子 西森路代
・身体と和解したい会議
田島ハルコ × 河井冬穂
・命だけでは生きられない──医師と元・スペースシャワーTV運営代表が語る「不要不急」のカルチャーについて
近藤正司 徳田嘉仁
・Which 健康(ヘルシー) do you like?
健康(ヘルシー) by ホリヒロカズ
・「ただ居る」ことの難しさ──(un)cured創刊に寄せて
徳田嘉仁 河井冬穂
【読書特集】
・健康と病をめぐる読書処方箋──「病んでいる」のは誰のせい?
宇野常寛 高島 鈴
【映画特集】
・わたしという宇宙でもがいて生きる、uncured な映画たち
ゆっきゅん
【論考】
・ポップミュージックが歌う「健康」のイデオロギー
つやちゃん
・読書とキュア──因習村ミステリーに見る「癒やし」の構造
速水健朗
・唯ぼんやりした不調──自律神経を批評する
福尾 匠
【エッセイ】
・「自然」でいるより「自分」でいたい
土門 蘭
・人生の夜の過ごし方 vol.1
tofubeats
【リサーチ】
・今日からはじめる読書セラピー
寺田真理子
・わたしの回復手順
絶対に終電を逃さない女 横道誠 他
<発行の背景>
このたび、くわくわ企画では、一人一人が自分主体の「健康」のあり方について、カルチャーを入り口に考え直す冊子『(un)cured』の発行を企画しています。
企画の原点には、くわくわ企画代表であり、総合診療医でもある徳田が日々の現場で感じてきた違和感があります。
それは、病院が効率化・画一化された「健康」を一方的に押し付けるのではなく、一人一人の価値観や人生観を尊重し、その人らしい「健やかさ」を支える存在でありたいというものです。
『(un)cured』が目指すのは、社会の要請に従った健康管理ではなく、「こんな自分でいたい」「こんな状態で日々を過ごしたい」といった、自分の心や身体が心地よい状態を主体的に選び取れるような新しい空気や価値観を社会全体に広げていくことです。
部屋や服を選ぶように、音楽を楽しむように──。カルチャーを入り口に、医療や健康、生命について、自然に心地よく向き合える時間をつくれることを願っています。
冊子名である“(un)cured”には、「治しきれていない」「未硬化の」といった意味があります。この言葉を軸に、医療者も非医療者も、健康や生命について横並びで語り合える場をつくっていければと考えています。
発行人:徳田嘉仁(くわくわ企画代表)


