台形日誌 / 著者・伏木庸平 / 晶文社
台形な日々
本書を読んでいると、高山なおみさんの『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』を読んでいるときの自分を思い出した。
日々の中でアンテナを降ろしているととりこぼしてしまうようなミクロで解像度の高い生活へのまなざし。
「台形」という料理店兼住居で根を張るように繰り広げられる日常と食事。
そこには、台形で提供される料理のように「〜〜風」「どこかの国の」とひとつに括れるような類の生活ではなく、著者の伏木庸平さんと妻の大木遥子さんの二人でしか起こしえない出来事と視点で綴られているものだから、日常の中の非日常を覗き見しているような気分でぐいぐいと読み進めてしまう。
なにより文章が面白いのなんの。
物事を一歩引いた位置から捉えたような自分ごとだけどどこか他人ごとでもある「観察者目線」で書かれた文章は時に本質を突いていて、時にクスッと笑わされてしまう。
ある日魚屋で一匹50円で売られており、「目が合って」連れて帰ってきた二匹のサワガニとの暮らしが書かれた「美食クラブ」は抜群に面白かった。
私たちは毎日の生活の中で、どれくらい一瞬一瞬を咀嚼できているだろうか。
明るい照明で照らされた食卓を囲むのと、ろうそく1本で相手の顔もよく見えない、手元の料理の色もよくわからないような食卓を囲むのでは感じ方もまったく違うように、ひとつの状況でも見方を変えれば多面的にどこまでも広がっていくこと、対象へとぐっとフォーカスして自身の五感と直感で感じとることで世界は彩り豊かに解像度が上がっていくんだよ、と本書から教えられたような気がする。
根を下ろしながらも、縦横無尽に、自由に生活を送っていきたい人に。
良きエッセンスが得られる一冊となっている。
<目次>
オク
アウトサイダー
完璧な一日の始まり
ぬ
朝プリン
デイドリーム
土の色
黒い鍋
フライ
石のサウダーデ
美食クラブ
サード・インパクト
西へ
家旅館
日陽はしづかに発酵し
食日誌(2021年2日2日~8月4日/2022年3月3日~3月31日)
あとがき
伏木庸平
1985年、東京都出身。2016年に東京・国立市で『台形』を開業。妻・大木瑶子とともに創作料理をコース仕立てで提供するほか、縄文土器や民間信仰品などの古物も販売している。美術家としても活動し、セゾン現代美術館(2022年『地つづきの輪郭』)、十和田市現代美術館(2014-5年『繋ぐ術 田中忠三郎が伝える精神』)をはじめ、国内外の展覧会に参加。生活と店と制作とが地続きな日々を送っている。