科学以前の心 / 著者・中谷宇吉郎、編・福岡伸一 / 河出書房新社
※本書は古書となります。
誠の観察眼
「みる」と一言で言っても「見る」かもしれないし、「観る」かもしれない。「診る」は医者のそれだと思われるので、ひとまず傍に置いておくとし、「見る」と「観る」の違いは何なのだろうか。
四季折々、今シーズンからは薪割りをしているので冬の時期もで、ありがたいことに自然の中に自らを投げ入れ、自ずから然らむ世界の中で生かさせてもらっている。野菜の栽培の際にも根や葉の状態を深く見立てて手を施している。その見立てが間違ってしまうといのちは風前の灯となってしまうこともあるから慎重にだ。薪を割るのも見立てが悪いと思わぬうところで木が割れてしまい、中途半端な薪になってしまう。こうした日々を営んでいると、視覚的に「見る」ということよりもより深くを見ていくという「観る」という要素が生活の大半を占めているのだ。幼子がいるから尚更、本人すらうまく言語化できない本心を読み取るためにも「観る」ことを続ける必要があるのだ。
さて、本書『科学以前の心』は雪の科学者にして名随筆家・中谷宇吉郎のエッセイを生物学者・福岡伸一氏が集成した一冊だ。科学者の文章なのでとてもロジカルな左脳的な世界かと思いきや、ページを捲ると文学的な描写が多いことに驚かされる。雪に日食、温泉と料理、映画や古寺名刹、原子力やコンピュータ……精密な知性とみずみずしい感性が織りなす珠玉の25篇を味わえば、誠の観察眼というものがこういうことかとご納得いただけるはずだ。
<目次>
1(雪の話;粉雪 ほか)
2(鼠の湯治;映画を作る話 ほか)
3(室鰺;真夏の日本海 ほか)
4(墨色;古寺随想 ほか)
5(なにかをするまえに、ちょっと考えてみること;機械の恋)
中谷 宇吉郎
1900年石川県生まれ。物理学者、随筆家。1936年、大学の低温実験室にて世界初の人工雪製作に成功するなど、低温科学に大きな業績を残す。科学をテーマにしたすぐれた随筆を数多く残した。著書に『冬の華』など。1962年没。
福岡 伸一
1959年、東京都生まれ。生物学者。農学博士。青山学院大学教授。『生物と無生物のあいだ』でサントリー学芸賞受賞。その他『動的平衡』『フェルメール 光の王国』『ルリボシカミキリの青』『福岡ハカセの本棚』など著作多数。

