エデンの裏庭 / 著者・吉田篤弘 / 岩波書店
物語の舞台袖
小学校六年生の学芸会で『モモ』の演劇を行った。自分は物語に重要なエッセンスを加えていくマイスターホラを演じた。この演劇は照明や音響などは先生のサポートがあるものの、出番が来ていない生徒たちで役割分担をしながら回していた。けれど、小学校六年生といえども、所詮小学生。要領のいい子もいればそうではない子もいる。むしろそうではない子の方が多いかもしれない。自分はそんな子達をサポートする先生の手の回らないところをサポートしたりする役回りをしていた。舞台袖の左右で先生と目配せをしながら適切なタイミングで適切にことをなす。舞台で演じるセリフをしっかりと言えるかということよりも、裏方の仕事を滞りなくこなせるのかということの方がその当時の自分のやりがいになってたのかもしれない。むしろ演じた時の記憶というのはさっぱりで、裏方を回していた時のことの方が記憶として鮮明に蘇ってくるのだ。舞台がフィクション・物語の世界であれば、舞台袖はノンフィクションの現実の世界があるのだろう。
本書『エデンの裏庭』にはそんな物語の前後や舞台袖ともいえるものがまとまっている。誰しもが一度は聞いたり読んだりしたことのある、「不思議の国のアリス」「ガリヴァー旅行記」「星の王子様」そして「モモ」の続きともいえる物語を吉田篤弘さんが創作し、それを“舞台袖”という視点で批評したり解説したりするという、一つの物語を多面的に表現したいわゆる“吉田ワールド”が展開されている。そして最後には著者が初期に連載していた本書と同名の「エデンの裏庭」という小説家が物語を描くというストーリーの中に前半部分が内包されているという多重も多多重に編まれている。
物語の世界にドッぷりと浸かりたい方におすすめの一冊。
<目次>
物語の舞台袖
1 アリスのいないお茶会
『不思議の国のアリス』*ルイス・キャロル
舞台袖からの報告・1
2 ガリヴァーの囁き
『ガリヴァー旅行記』*ジョナサン・スウィフト
舞台袖からの報告・2
3 王子さまのいない星
『星の王子さま』*サン=テグジュペリ
舞台袖からの報告
4 灰色の男の葉巻のけむり
『モモ』*ミヒャエル・エンデ
舞台袖からの報告・4
エデンの裏庭
あとがき
吉田篤弘
1962年東京都生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による創作とデザインの仕事を手がけている。著書に『月とコーヒー』『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『台所のラジオ』『おやすみ、東京』『流星シネマ』『おるもすと』『神様のいる街』『チョコレート・ガール探偵譚』『中庭のオレンジ』『なにごともなく、晴天。』『十字路の探偵』『#東京アパート』などがある。



