柳宗悦 無地の美学 / 著者・佐々風太 / 専修大学出版局
無の思想
今までたくさんの家や空間を見てきた。旅先の宿としてお借りした邸宅や遊びにいったお家、ホテルなんかもそれらに入るかもしれない。
これは個人の趣味性に由るところが大きいので何とも言い難いが、シンプルでミニマリズムな空間にはあまり惹かれない。それよりも少しものが多いなと感じ、でもその中で一定のリズム感や統一感を感じることのできる空間に惹かれる。ある種の人間性を感じることができることが、惹かれる理由なのかもしれない。
そしてこれも一個人の意見として聞いていただきたいのだが、ミニマリズムの空間の中には、これだけものが少なくとも生きていけるのだという家主の自尊心のようなものが漂ってくる居心地の悪さのようなものを感じ取ってしまうのだ。方やものに溢れた空間は一見散乱しているかのように思われるが、そこが家であれば前提として誰かに見せるためというところではなく、自分自身を満たすためのものであるので、そのベクトルの矛先が内側に向いている。彼らからしたらよそ者は関係ないはずだ。
本書『柳宗悦 無地の美学』では、柳が生前に残した「無地」という言葉や彼が意味する「無地」とはどういったことなのか、残された言葉や影響を受けた人物を頼りに紐解いている。柳にとって「無地」とはいかなるものか。柳の「無地」をめぐる思索は、従来の研究では明確に主題とされてこなかった。本書では、作り手と鑑賞者との関係や「もの」と「無」、「偶発性」を軸に「無地」という造形を追究する。
その中の議論の中に「見る」「見られる」という関係性の論述があった。作り手が見られることを意識した際に出来上がるものと、そうではない状態で出来上がるものの間に、どのような差異があるのだろうか。冒頭の議論はそんなところから浮かび上がってきたものなのだ。
シンプルなものが「無地」ではない、では「無地」とは一体何なのか。
そんなことを考えてみたい方に手にしてもらいたい一冊。
<目次>
序 章 「無地」を主題化する
第一章 最初期の無地論―『白樺』時代を中心に
第二章 民藝の無地―民藝運動の誕生と展開期を中心に
第三章 「美醜をこえた」無地―「仏教美学」形成期を中心に
第四章 陶芸家・濱田庄司と「見られる」無地
第五章 無地の行方―柳宗悦最後の問い、そして柳宗悦没後の無地の世界
終 章 「無」と「もの」の出会い
佐々風太
東京科学大学リベラルアーツ研究教育院 特別研究員、日本民藝協会機関誌『民藝』編集委員。
1996年北海道札幌市生まれ。武蔵野美術大学卒業。同大学院修士課程修了。東京工業大学(現・東京科学大学)大学院博士後期課程修了。博士(学術)。
柳宗悦・民藝運動を中心とする近現代工芸を専門とし、特に民藝運動における理論と制作の関係について研究している。論文「『用いる』ことをめぐる柳宗悦の思想―『仏教美学』との関わりに注目して」で第19 回涙骨賞奨励賞受賞(2023年)。


