収納され続ける収納 生活者のデザイン史 / 著者・北田聖子 / 雷鳥社
生活を収納する
海外に旅に出ていた時は、ホテルなどはほとんど泊まらずAirbnbや取材先の家に泊まらせてもらうことが多かった。数日だけれど寝食をともにする経験を異国でできたことは知らぬまに自分自身の何かしらのアイデアや考えにも繋がっている気もするしそうでもないかもしれない。世間からしたら僕が旅先としてよく通っていた北欧の国々はミニマリストたちが多そうな印象を抱く方も多いのかもしれない、けれど、上手く収納して外側に出しているものが少なかったり、生活する際の目線がどこにいくのかをしっかりと考えた上で目線がいく場所はすっきりと、そうではない場所には見せながら収納したりという現場の風景を見られたことは良い経験だったかもしれない。そうした小さな積み重ねが生きるスタイルに繋がっていき、その断片を切り取り象徴的なデザインアイコンを合わせたものが北欧インテリアスタイルとしてメディアを通して私たちは見せられているのだと早々に気づいたことが自分の中での大きな分岐点となったのは間違いないだろう。
さて、こうした収納に関して日本人としてのアイデンティティはどういったものがあるのだろうか。確かに祖父母の家にはドラえもんの四次元ポケットよろしく、本当にさまざまなものに溢れており、何を言っても何でも出てくるんじゃないかと思うほどで、ものに溢れすぎて小屋を何軒か増築しているくらいだった。ちょうど戦後からバブル期までのものがない時代からものが溢れる時代を現役として生きていた祖父母の世代だからこそのことなのだろう。
そんな私たち日本人の収納の歴史を社会的な観点から紐解いているのが、本書『収納され続ける収納 生活者のデザイン史』だ。桑沢デザイン研究所でデザイン史を教える著者・北田聖子さんがつむぐ「収納」の歴史の一冊。
誰もがあたりまえに行っている行為「収納」。おもに住まいに関する収納を取り上げた書籍や雑誌の刊行はあとをたたない。なぜ収納の話題は尽きないのか。また、どうして私たちは物をどうにか収納しようとし続けるのか。
本書では、「住まいにおける収納がどのように語られてきたか」をテーマに、収納の歴史を3つの章と10のパートにわけて編成し、私たちになじみのある現代から、過去にさかのぼるかたちで、時代ごとに変わっていく収納の意味や、それらがあらわれた文脈を、ことばを手がかりに取り上げている。
私たちは日々、デザインの所産である物を住まいのどこかに置いたり、隠したり、飾ったり、ときにはそのための収納用品を自らつくったりして、生活をかたちづくっている。収納の歴史は、名もなき人々のデザイン、そして生きた証でもあるのだろう。
<目次>
はじめに
第一章 二〇〇〇年代
・終わりなき暮らしの実験──ブロガーの収納
(ブログからの出発/ほどよく「生活感」は避けたい/収納の文脈である「暮らし」/資格取得の活発化と「暮らし」への関心/自分の問題を他者のための仕事に)
・コラム 商品パッケージの悲哀
・収納の逆説──ミニマリストの収納
(「ミニマリスト」とは/「収納」を捨てることの意味/物を手放す系譜/ミニマリストを可能にする社会/透明な箱のその後)
・日常と地続きの創造のありか──クリエイターの収納
(「クリエイター」への期待/職・住のスイッチ/収納にひそむ可能性/物の延命/創造である日常、日常にある創造)
・収納を語ることへのアンチテーゼ──ズボラニストの収納
(減らすのは物ではなく家事/理想は高いが、がんばらない/「見えない場所」は所詮みえない/「暮らし」の死角/語らなくていいかもしれない「収納」)
第二章 戦後から九〇年代
・ファイリング・システムから問う過去の未来──研究者の収納
(「物」の整理学/ファイリング・キャビネットの収納/「代謝系」と「愛着系」/これまでにない物の増殖/「家事整理」のゆくえ)
・子ども部屋という「夢」と手づくり──ティーンの収納
(ティーン向けインテリア誌/「空間演出」のための収納/あこがれを内包する子ども部屋/子ども部屋の個室化/「私の部屋」という夢)
・コラム 魅惑のワイヤーネット
・「収納ベタ」への救いの手──プロの収納
(引越しのプロから収納のプロへ/マニュアルになることとならないこと/収納のエンタメ化/「間」の仕事/収納に重ねられる成長)
・コラム 廃物利用の収納グッズはどこへいった
第三章 明治後期から戦中
・「収納」を語ることのプロローグ──主婦の収納
(「家庭」での女性と家事/方法である収納/収納を語るのは誰か/家事で多忙な女性たち/収納を語る場の形成)
・理想的な「生活」からみた収納の領分──建築家の収納
(建築家・川喜田煉七郎の家具/標準化という課題/今和次郎の「品物調査」との比較/「とびはなれ」ない生活/合理性に貫かれる住まい)
・コラム A4書類がカバンにおさまるわけ
・繰り返されない日常での収納──国民の収納
(主婦から「国民」へ/非常時の工夫/戦時体制下の「簡素」という価値/「最低生活」のための「家」とは/収納がつなぎとめるもの)
おわりに
北田聖子
1975年大阪府生まれ。博士(美術)。日本学術振興会特別研究員(DC2、PD)、関西の専門学校や大学・大学院での非常勤講師を経て、2011年に専門学校桑沢デザイン研究所専任教員着任。同校でデザインに関わる教養科目群を運営するデザイン学分野に所属し、デザイン史や、デザインの発想、提案に必要な文章の読み書きの授業を担当。個人の研究活動で、デザイン史研究の射程を探るべく「規格化・標準化」や「収納」「片づけ」というテーマに取り組んでいる。