sees magazine vol.2 / 株式会社やまとわ
藝える風景
よく家庭菜園をやっているというと、「いいね!すごいね、私の理想です」なんて言われる。けれどその広さが合計2000平米近くだということを伝えると、途端「大変でしょ、私にはできない」なんて声を投げかけてくるのだ。人によってその捉え方に大きな差があることを理解しつつ、自分自身はその規模の農に勤しむことをどう感じているのかということについて考えてみると、気づいたらそのくらいの規模感になってしまったというのが正直なところ。つまり本人としてはすごいとも大変とも思っていない。歩いていたら遠くまで来てしまったということなのだ。
面白いのが自分が手がける場所はこれまでも含めてそのほとんどが耕作を放棄された荒地。いわゆる耕作放棄地でセイタカアワダチソウは自分の倍以上の背丈に成長し、名も分からぬ雑草はブッシュ化して木のように様相を変えている。そんな場所を草刈機を使って丁寧に刈っていくのだが、貸主からは「今年は整地だけで、諦めるんだな」なんてこころ無い言葉を投げかけられることもしばしば。そうした声を右から左に流す術が時と共に身についたことを実感しつつ、でも自分の中でも「来年からかもしれない」なんてことをふと思ったりもする。けれど草を刈り、木を抜根していくとそこに風が通り土の様子が伺えるとなんとなく、自分の頭の中で風景が立ち上がっていく。イメージとでも言えようか、頭の中には作物が生き生きとそこに在り、満ち足りた想像なのだ。頭に浮かべはその風景を創っていけばいい、そんなこころ持ちで風景創りに勤しんでいると、いつの間にか作物も自分たち家族やその少し周辺が満足できるくらいまで野菜や米ができてくるということを、農に携わる5年、6年の間に身に沁みて感じている。
僕がやっている自然農という自然との向き合い方を提唱した川口由一さんは、農と藝(アート・芸術)の根本の美しさは一緒だと生前仰っていたようだ。どちらもいのちをどのような環境でどのような形で表現していくかというところに視点を持っていけばその言葉はすんなりと腑に落ちていく。先の頭の中のイメージをどうそこに在る状態に組み立て創造していくかという大いなる問いを身体性を伴う形で表現していくのだ。
sees magazine vol.2のテーマでもある『藝える』という言葉やその言葉のなりたちをはじめて知り、より一層、農と藝は密接に関わっているということを実感した。そして冒頭の医師の稲葉俊郎さんとの対話の中で 『藝える』ということは信じて祈るということに近いこころ持ちなのだということを知った。まさしく、農や藝に勤しむ時にこころの態度として信じて祈るという瞬間は訪れるはずなのだ。
現代の頭が主導の社会にとって、こうした身体性を伴う感覚をもう一度取り戻していくことが急務になってきていると感じる。是非とも本書をそのキッカケにしてみて欲しい。
<目次>
⊹ 特集 「藝える」 今、私たちは何を植え、何を育むのか ⊹
𓏸 哲学者・永井玲衣さんと“藝える”について考える編集会議
𓏸 わたしとアートの距離は、いつ生まれたのだろう -「藝える」から紐解くビリビリ鼎談 / ロジャー・マクドナルド × 野村政之 × 奥田悠史
𓏸 芸術という営みから人間を見つめ直す 「芸術人類学」というまなざし /人類学者・石倉敏明さん
𓏸 利他という奇跡を起こすには / 美学者・伊藤亜紗さん
宮沢賢治が藝えたもの
𓏸 100年前の最先端・宮沢賢治と歩く「未来」と「幸福」のカタチ / 独立研究者・岡田基生さん
𓏸 宮沢賢治『虔十公園林』 絵:淺井真至
𓏸 賢治が見た風景
𓏸 足跡の先にある風景を探して - 新政酒造の酒造りにみる、農民芸術の現在形 / 佐藤祐輔 × 井上岳一
藝える人
𓏸 トンコハウス 堤大介さん「好奇心さえあれば、自分の道は見つけられる - トンコハウス・堤大介がアニメーションの向こうに見る夢」
𓏸 ブックアーティスト 太田泰友さん「表現したいという衝動が、森に向かう原動力 - ブックアーティストがいま森の中で考えていること」
𓏸 藝える人 03 - 田楽座 中山さん「その芸に生活は宿っているか - いま民俗芸能を演じ、伝えていくということ」
𓏸 浮いてまう。──徳山村、増山たづ子さんが遺した「生」
𓏸 受け取った人からの手紙 / 京都大学名誉教授・田中克
𓏸 取材を終え、いまふたたびの哲学対話 ー問いを藝えつづけるためにー
⊹ Series ⊹
𓏸 わたしたちが共に生きるための、ちょうどいいテクノロジーとは - みんなでつくる「より強く、より速い」だけではない社会 / 緒方壽人 × 奥田悠史
𓏸 マンガ『視点』 vol2. わたしがいちばん 絵:そねぽん
𓏸 土と水から、民主主義を問い直す / greenz.jp 編集長・増村江利子
𓏸 アフリカの農村から問い直す、生と死、そして失敗という特権 / Dots for Inc. 代表・大場カルロスさん
𓏸 薄っぺらでないもの、あるいは残ってほしい文化遺産 / ノンフィクション作家・島村菜津
𓏸 藝える、歩く。 絵:小島有
𓏸 森の素材ラボ
𓏸 伊那谷風土展 絵:マメイケダ
----
『sees magazine』Vol.2
サイズ:B5変形
ページ:152ページ
言語:日本語
ISBN:978-4-9913984-1-4
定価:2,400円+税(10%)
発行元:株式会社やまとわ
編集長:奥田悠史
編集:黒岩麻衣、川合沙代子、市川雪乃
デザイン:太田真紀、前澤知美



