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ふつうのオオカミたち

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ふつうのオオカミたち / 著者・セス・キャントナー、翻訳・池澤 綾羽 / 河出書房新社



生きる息遣い



世界が、グローバル化が進むことで私たちはどこに行ってもお金というメディアを通して何かを交換し経済を回し生活している。けれど、世界の辺境の地に行けば、それらを介さないでやり取りをする原初来の人間通しのコミュニケーションが残っている、いやいたと過去形で書いた方が良いくらい現在は希少性が高いものとなった。それに拍車をかけたのが、スマートフォンやインターネットだろう。これらがあることで世界の裏側で何が起こっているかということが瞬時に情報として入ってくる。以前だったら知りもしないことが脳内にインプットされるのだから、それらは憧憬なども混ざり、グローバル化の名のもとに生活スタイルが標準化されていってしまうような気がする。何不自由なく生きていける便利さのある現代生活のような進歩の世界を取るか、少し不便だけれど彩りが残る伝統的な生活のような手触りのある世界を取るか、人類というものはとてつもない選択を迫られているような気がするのだ。


さて、本書『ふつうのオオカミたち』はアラスカ生まれの白人の男の子の、狩猟生活と都会の間で引き裂かれる葛藤を、変容するエスキモー社会とともに描く傑作長篇。まさしく先に挙げた文明の新旧の荒波を感じることができる唯一といっていい場所についてのネイチャーフィクションなのだ。

雪原の彼方には、なにがあるのか。オオカミ、ムース、ヒグマを殺し、食し、共生するエスキモーの暮らしを生きる、白人一家の魂の物語。いらない「必要」を嫌う特別な画家の父エイブ・ホークリー、原野と外の世界に憧れる兄ジェリー、明るく美しくだれとでも打ちとける姉アイリス、黄色い髪の僕カタック。アラスカでエスキモーと生きる白人一家の苛烈かつ切ない物語。野性というものを客体化しコントロールしようとした大きな枠組み、そしてただそこに在るという本来持つ存在への肯定などの現代社会の矛盾や揺らぎを感じさせられる。

世界でいちばんきれいな初恋の人ドウナ、夜を満たすために物語をかたる狩人エヌーク、お母さんみたいなハグをするジャネットなど、個性的な登場人物が織りなす、21世紀版『野性の呼び声』。


ここにはリアルな葛藤と息遣いが詰まっている。



セスがいることで、自分の中のアラスカはある輝きをもっていた。

──星野道夫(『ノーザンライツ』新潮文庫より


野生の世界と私たちの破壊的な消費文化の対比を、これほど鮮やかに捉えた作品は読んだことがない。

──ルイーズ・アードリック





セス・キャントナー

アラスカ生まれ。作家・漁師・野生生物写真家。大学でジャーナリズムを専攻。2004年に本書でデビュー、高い評価を得る。22年『故郷へつづく千の道:カリブーと生きて』でナショナル・アウトドアブック賞受賞。

 

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