夜間飛行・人間の大地 / 著者・サン=テグジュペリ、翻訳・野崎 歓 / 岩波書店
小さな光
幾度となく北欧を旅し、そこで生きている人たち、特にクリエイターたちに話を聞いてきた。今、何を思い考え、そして行動しているのか。いつだって彼ら、彼女らから出てくる言葉の数々にこころを動かされると同時に自分自身はこれからどうアクションしていくべきなのかということを問われているような感覚になっていた。
帰路の飛行機はヨーロッパを大体夕方の17時30分くらいに立ち、翌日の朝9時過ぎごろに日本に到着するという便で帰ってきていた。つまり日本上空に差し掛かる前までは、日没後の上空を飛行することとなる。
当時はロシア上空を飛行しているので、サンクトペテルブルクやモスクワ上空を飛行している時などに窓から眼下を眺めてみると、オレンジ色の無数の明かりがまとまって見え、都市での賑わいや喧騒を想像してみるのだった。
ただ、そんな光景は序盤だけで、広大なロシア上空はほとんど明かりという人の気配は感じることができない。先にあげた大きな問いかけを考えつつ、この旅の取材のことを振り返り、誌面としてどのように落とし込んでいくべきかなどを思案しながら、眠れぬ空の旅を続けるのだ。
飛行も中盤、そんな時、ふと窓の外に目をやると、先ほどの都市ほどの光の群れではないけれど、確かなでも小さな明かりを見つけることができる。小さな光であるけれど、力強くこちらを照らしてくれているようで、一筋の明かりが今後の行先を照らしてくれているようでいつだって励みになっていた。
さて本書『夜間飛行・人間の大地』の著者でもあり、名著「星の王子さま」の著者のサン=テグジュペリも飛行中にそんな景色を見ていたかもしれない。職業飛行家としても知られる氏の名著とも言える、夜空にひそむ美と脅威、人間の責務と幸福とのせめぎ合いを描く『夜間飛行』、そしてアフリカ・南米航路の開拓者たちの命がけの挑戦や、現地の人々の気高さを語る『人間の大地(翻訳によっては土地と表記)』。生涯、飛行士として飛び続けた作家が、天空と地上での生の意味を問う代表作二作が原文の硬質な輝きを伝える新訳で贅沢にも一冊に収録されている。生死の間で人間の尊厳を確証する高邁な勇気にみちた行動を描く。
人間本然の姿を星々や地球のあいだに探し、現代人に生活と行動の指針を与えてくれることだろう。
<目次>
地 図
夜間飛行
人間の大地
1 定期路線
2 仲間たち
3 飛行機
4 飛行機と惑星
5 オアシス
6 砂漠の中で
7 砂漠の中心で
8 人間たち
サン=テグジュペリ
フランスの小説家、飛行士。1926年ラテコエール航空会社に入社。北西アフリカ、南大西洋、南米航路の開拓者、夜間飛行の先駆者の一人。第二次大戦中、コルシカ島から偵察飛行に出撃後、未帰還。本書『夜間飛行』はフェミナ賞、『人間の大地』はアカデミー小説大賞受賞。
野崎 歓
1959年生。フランス文学者。放送大学教授、東京大学名誉教授。主な著書、『ジャン・ルノワール 越境する映画』『谷崎潤一郎と異国の言語』『赤ちゃん教育』『異邦の香り─ネルヴァル『東方紀行』論』『夢の共有─文学と翻訳と映画のはざまで』『水の匂いがするようだ─井伏鱒二のほうへ』など。主な訳書、ジャン=フィリップ・トゥーサン『浴室』『マリーについての本当の話』、サン=テグジュペリ『ちいさな王子』、スタンダール『赤と黒』、ウエルベック『地図と領土』、バザン『映画とは何か』、ネルヴァル『火の娘たち』、モアメド・ムブガル・サール『人類の深奥に秘められた記憶』など。

