山の時刻 / 著者・小林百合子、写真・野川かさね / パイインターナショナル
もう一つの時間
谷内こうたという絵本作家の作品に『ぼくたちのやま』という絵本がある。春夏秋冬の山の景色の移ろいについて絵ととても短い文章でまとめてある。春にはピクニックや農機具を動かしている絵、夏には虫取り網を持った子供たちと入道雲、秋には紅葉狩りんい向かう人々の列、そして冬には一面雪景色の山の麓で雪遊びをしている、そんな感じだ。
実際に信州・上田に移住をして四方を山に囲まれた生活をしていると、カレンダーや時計で字面上理解している時の流れとはまた少し異なる、自然が教えてくれる時の流れを感じることができる。例えば、春になってくるとそれまで山の木々の間がスカスカだったところに様々なものが芽吹き始め、5月ごろには山が一回り大きくなって迫り出しているようにすら感じる。こうした景色が自分を取り巻き始めたら、農作業のトマトやナスをはじめとした夏野菜の苗の準備をしなくてはと思ったりするのだ。
そうした山が教えてくれる時の流れとカレンダーを毎年見比べてみても微妙なズレがあるし、私たちのこころのリズムを取り戻すためには、山が教えてくれるもう一つの時間が頼りになってくるのだろうと直感的に感じるのだ。
さて、本書『山の時刻(とき)』はまさしくそうした山の時の流れを感じさせてくれる自然の一瞬の景色をとらえた写真とそれを描写した内容がギュッとまとまった一冊だ。
一瞬で過ぎ去ってしまう、儚く美しい山の情景。それに目を凝らし、撮影を続ける写真家・野川かさねが撮り溜めてきた膨大な写真の中から珠玉の作品を厳選。
それらからインスピレーションを得て生まれた四季折々、山にまつわる120の言葉と散文を収録し、「山に流れる時間」を刻んだビジュアルエッセイ。
山での一瞬を焼き付けた129 枚の写真と、120点の言葉。それらは瞬間であり、点であり、時刻である。そのすべてをつなぎ合わせた時、ひと筋の「山の時間」が生まれる。「街の時間」とは異なる、おおらかで美しい流れに身をゆだねた時、これまで気づかなかった、ささやかでも大切なものが見えてくる。
何か普段の生活でリズムを整えていきたい時には、まず山に相談すると良さそうだ。
<目次>
春―printemps(雪解水【ゆきどけみず】;猿麻峠【さるおがせ】 ほか)
夏―´et´e(山開き【やまびらき】;沢登り【さわのぼり】 ほか)
秋―automne(寒露【かんろ】;秋澄む【あきすむ】 ほか)
冬―hiver(山始【やまはじめ】;トレース【とれーす】 ほか)
小林百合子
編集者/1980 年兵庫県生まれ。映像制作会社、出版社勤務を経て独立。山や自然、暮らしや食にまつわる雑誌や書籍の編集・執筆を多く手がける。著書に『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山小屋の灯』(山と溪谷社)『山と山小屋』(平凡社)『山と高原』(小社刊)。女性クリエイター8人からなる登山出版ユニット「ホシガラス山岳会」主宰としても活動し、書籍に『一生ものの、山道具』『山登りのいろは』『あたらしい登山案内』『最高の山ごはん』(すべて小社刊)。2023 年より北海道に暮らし、北の自然についても表現する。
野川 かさね
写真家/1977年神奈川県生まれ。山や自然をテーマに作品を発表する。写真集に『山と鹿』(ユトレヒト)、『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)。著書に『山と写真』(実業之日本社)『think of your mountain』(BCCKS)。主な展示に「VIEWING MOUNTAIN」(KOKUYO think of things 2018)「東京写真月間2019「山を生きる人々」-山と共に-」(ピクトリコ ショップ&ギャラリー表参道 2019)「study/FOREST」 (pieni onni 2022)「study MOUNTAIN 山の探求」(田淵行男記念館2023)「FRAGMENT」(NADAR 京都大山崎 2024)など。





