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山の家クヌルプ

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山の家 クヌルプ / 編著・エクリ、写真・野川かさね、挿画・伊藤弘二

 

社会の居候



人と人が繋がるというのは、本当にひょんなことから始まることが多い。同質的ないや、同調的なコミュニティの中からは同志と呼べる仲間と出会えることは実は稀なことなのかもしれない。

斯くいう自分も会社員という見えない仮面を被り、決まった時間に出社し、その日やるべき仕事が終わっていても周りの空気感でなかなか帰りずらいという繰り返しの日々にうんざりしていたし、そうした状況の中で自分の胸の内にある考えやアイデアを共に語らい共感できるような間柄の同志はなかなか生まれなかった。

そんなこともあり、自分の肩書きや所属というものを一旦置いた状態で、自分の興味、関心に改めてに立ち返り、自由大学という大人の学びの場に出入りすることである種のカタルシスとして解消されていった。自分の中の枠組みを勇気を持って乗り越えたとカッコよくいってしまえばそれまでだが、現実的な表現をすると別の社会の枠組みに居候させてもらっていたのだ。そこでは共通する一つの興味というもので繋がりあった同志が生まれたし、そこで繋がった人たちと仕事なども一緒にやった経験は自分の人生の中で財産になっている。そんなことがきっかけで、その後のそれなりに長い変遷を経て、今信州・上田で小さなブックショップを開くということになった。

さて、本書『山の家 クヌルプ』の中で「人と人との繋がりは星々を繋ぐようなもの」といったニュアンスの文章が書かれていて、まさしくそんなことを思った次第なのだ。

本書の内容の舞台は2017年に開設60年を迎えた霧ケ峰高原沢渡のクヌルプ・ヒュッテ。戦時を辛うじて生き延びた山小屋主人夫婦、そして小屋に集った人たちやファンの方へのインタビューで綴られた一冊。

ページを開いて読んでみると、『居候』という言葉がよく目に留まるはずだ。そう、クヌルプはその時代の時々に社会の当たり前に違和感を感じた人たち、つまり『居候』たちを優しくも温かく迎え入れてくれていたのだった。そんな感じを文章の中からじんわりと感じることができるだろう。自分も時代が時代だったら、この山小屋にお世話になっていたのかもしれないとすら思えてくる。


今の時代、こういった社会の『居候』を受け入れてくれるところはあるのだろうか。


小屋をつくりあげた夫妻と、助っ人として常連として集った人々が語る豊かな高原の日々。クヌルプはいつも懐かしい。いつも新しい。

 

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