Life Works / 著者・片岡俊 / 赤々舎
地球の摂理、いのちの摂理
20年前以上に祖父が荼毘に付せ、祖父母が住んでいた家が空き家になった。定期的に家の中の掃除を相続した僕の叔父がしている。2021年に自分たちが移住をしてからしばらくぶりに、祖父母の家を訪ねる機会があった。訪ねるといっても家の中に入るのではなく、庭のあたりを見回す程度のことであった。
そこの庭の思い出は大きい石が積み上げられ、まさしく小さな宇宙がそこに存在するかのような多種多様な草花が祖父母の愛情のもと、植えられていたことや、夏に帰省した時には、祖父が朝早くから庭に縄を張り、そこに干瓢を作るために、大きな夕顔を帯状に剥いている光景が今でも目の前に現れるような気がするほど、記憶に残っている。
そして久々にその大きくもなく、小さくもない庭に入ってみると、その当時からほとんど変わらず、時が止まってしまっているのではと思ってしまうほど、草花や木々が相変わらずそこでいのちを全うしているのだ。
主人亡き今、この草花や木々は何を思っているのだろうか。地球の摂理、いのちの摂理は時に輝かしいものの、そうした感情なきままに時が進んでしまう非情さも感じるのであった。
さて、本書『Life Works』もそうした祖父が手入れしていた庭を題材に、写真家の片岡俊さんが「自然」と「人」の関わり合いに着目した写真作品の一冊だ。
2010年の作品制作の始まりから現在に至るまで、ひとつの庭を舞台に撮影したシリーズの本書。半世紀以上にわたりその庭で、野菜や植物を育て、草をむしり水を撒いてきた祖父の営み。しかしその年齢が80歳に差し掛かる頃、変化が訪れる。鬱蒼と育っては枯れるを繰り返す、自生する植物の存在 ──。自由に育つ植物と祖父の手の二つが交差した時間が、カラーフイルムによって丹念に焼き付けられているのが印象的。
地面に落ちた種子の一粒から始まり、絶え間ない変化を生む植物の密集した循環の歳月。場所に関わる人の手の跡が混じり合い、やがて人がこの世から去った後も手製の枠は残り、葉擦れの音はやむことはない。時がもたらす変容や堆積が、片岡さんの「見つめ」続ける態度によって克明に刻まれている。
どこか懐かしい緑のバインダーを思わせる装丁にくるまれた、植物と人との共生。庭から始まる宇宙。『Life Works』は、片岡さんの作家としての基点を告げる一冊となっている。
片岡俊
写真家。1984年生まれ。「自然」と「人」の関わり合いに着目した写真作品を制作している。主な個展に「Life Works」(Nikon Salon、東京・大阪、2019年)など。2020年 THE BACKYARD PITCH GRANTファイナリスト。2021年 KYOTOGRAPHIE International Portfolio Review 2021 DELTA Awardを受賞。




