世界の中にありながら世界に属さない[増補新版] / 著者・吉福伸逸 / サンガ新社
“世界”を紐解く
北欧を旅している時に一番の驚きだったのが、職種や仕事をガラリと変化させる人の多さだった。少なくとも自分がマガジンa quiet dayでインタビューした人たちはそういう方たちが多かった。元々は保育士をしていた古レコードとエスプレッソカフェを立ち上げた方や、インテリアショップを経営していたと思ったら、PR会社で突然働き始めた方などと、関連した企業や職種に転職するならまだしも、日本人の自分からしたら脈絡もなく人生の転機というポイントを自らの手や意志によってポジティブに行っていることがすごく驚きだったし、その生き方の自由さに少し憧れのような感情が芽生えたことも確かだった。
こうしたことは、キャリアという面だけでなく、普段のコミュニケーションのやりとりからも見てとれた。投げ交わす言葉の間から、相手の本心などが読み取れた時には、(こういう言葉の裏や間の本心を読み解くことは日本人の得意なところなのかもしれないが)あれ、この前と言っていることが真逆になっていることもザラだったし、本当は方向転換させてこっち側に行きたいのだなという確かな意志を感じることができた。この潔さはともすると一見、気が散漫してしまって一貫性がないようにも捉えられるが、彼ら彼女らにとっては自分が決めたことが絶対ということはないという前提のもと、思考や行動をしているようで、一度立ち止まり、自分自身の決断を自分自身で否定して次の行動に繋げていくという生き方はなんだか自分に由るという意味合いで自由でいいなと思ったのだった。
そうした影響を受けてかどうか分からないが、僕自身のキャリアも自分自身で破壊し塗り替えてきたキャリアだったように思う。会社員からフリーランスそして店舗経営へ。通信業からキュレーション編集、そして小売や農へと世界が拡張しつつある。前までのやってきたことが一切の無駄ということではなく、自身の経験の蓄積としてしっかりと肌身の中にあるのだ。
さて、こんなことを思い起こさせてくれたのが、本書『世界の中にありながら世界に属さない[増補新版]』だ。心理学や精神世界に精通した吉福伸逸さん。彼の最後の作品として、2015年に株式会社サンガから刊行されたものの増補新版になっている。吉福さんのまとまった講義としては結果的に最後のものとなった、2010年4月に行われた4日間のカウンセラー向け集中講義の記録をもとに書籍化した内容。
ラム・ダスの『Be Here Now』をはじめアメリカに生まれた新しい潮流の作品を翻訳して紹介し、日本に「精神世界」というジャンルを生んだ吉福さんは、翻訳と同時にトランスパーソナル心理学に代表されるニューエイジ発祥の各種セラピーを日本に紹介し、セラピストとしても大きな影響を与えた。
本書は経験に根差すカウンセリングの知見にとどまらず、吉福伸逸さんの思想、人間観が凝縮した集大成といえる作品になっている。再刊にあたって旧版に未収録のワークショップの記録を大幅に増補。
きっとこの一冊が自分を取り巻く“世界”を丁寧に紐解くための補助線になっていくことだろう。
不安と挫折と破綻こそが「人に成る」ための最大の契機だと、
君はアメリカから帰ってきた30歳の頃に喝破していたね。
そのためには「ちっちゃな共同体」にいるべきだと勧めていたね。
この遺作を読んでいると、いろいろ涙が出てきたよ。
松岡正剛(編集工学者)
<目次>
●なぜ語るのか
●四つの力
人を揺り動かす力/前景と背景/社会は自分で作り上げたもの/思考の力のエネルギー源/「考える」とは何か/世界を止める/感情の力のエネルギー源/想起の川/三つの力を育てる/存在の力のエネルギー源/関係性のエネルギー源/存在の美/三つの力のバランス
●自我と成長
なぜこんなにも長くわれわれは生き残るのか/自我の残痕とボケ/日本人の自我/明け渡しに導く社会/英雄の道/メロドラマの罠/自我の発生と二つの機能/自我の寿命/マトリックスの役割と移行/欠如のトラウマと過剰のトラウマ/女性性と母性/母親から家庭、そして社会へ/不安定なマトリックス/マトリックスの機能不全
●自己と社会
自己イメージと影/自我と自己/いびつな自己イメージ/身体を疎外する自我/境界線と投影/不安というジャンピングボード/機能上の自我/印象の集合体/社会はアクティングアウトでできている/人生を生きる衝動/存在の不安/アイデンティティの破綻
世界の中にありながら世界に属さな
人は成長しない/恐れずに破綻しなさい/愚かな自我という自覚/いったい何をしてきたのか/抵抗せずに受け止める/自分を自分自身からいかに自由にするか/愚かであることの勇気/何もしないこと/小さな共同体の修正機能/死の受容の問題/個の死と命の潮流/生と死のバランス/なぜセラピーをするのか/世界の中にありながら世界に属さない
■追補 ワークショップの現場から
身体のさまざまな部位に対する情動の影響/関係性の雛形/セラピストが提供する三つのもの/徹底的に受け入れて、手放す/別れる、手放す/男女の関係は執着関係/セラピーやカウンセリングをまともにやるには/自己嫌悪との葛藤
吉福伸逸年譜
編者あとがき
増補新版のためのあとがき
吉福伸逸
1943年9月、岡山県生まれ。1966年に早稲田大学文学部中退。ジャズプレーヤーとして嘱望され、バークリー音楽院留学のため渡米するも音楽家としての挫折を経験。その後カリフォルニア大学バークレー校でサンスクリットを学び、当時、米国西海岸を中心に花開いていたカウンターカルチャーの渦に身を投じる。1974年に帰国後は、ラム・ダスの『ビー・ヒア・ナウ』をはじめとして、フリッチョフ・カプラの『タオ自然学』、ケン・ウィルバーなど新しい潮流を伝える多くの作品を翻訳、日本に「精神世界」というジャンルを生み出した。またトランスパーソナル心理学の紹介に精力的に取り組み、セラピストとしても活躍。多くの影響を与えた。2013年4月に逝去。享年70歳。
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