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Coyote No.89 特集 星野道夫 夢見る旅

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Coyote No.89 星野道夫 夢見る旅 / 編集・スイッチパブリッシング



All or Nothing



自然農の提唱者・川口由一さんは、その道を志す心構えの一つとして「草と虫を敵としない」という言葉を残した。自然界と共存しながら目的となる作物を栽培していくということだ。だからといっていつでも草をボーボーにしたまま放置というわけではない。明らかに生育を阻害するくらいに日差しを遮ってしまったりする場合は根と茎の間にある成長点を鋸鎌で潔く刈る。もう二度と生えてこないようにと。自然界で共存するということはこの潔さを腹の中に据えておくということなのだ。

ある人は人参の間引きが苦手だという。人参は発芽が難しく、それをしっかりとさせるために、種まきの際に密集させて筋まきにすることが多い。けれど、本葉が本格的に伸びてくる頃には、その後の成長にあたり違いが狭くなってしまうので、一定の間隔ごとに引っこ抜きスペースを開ける間引きという作業を行う。せっかくここまで成長したのだから、いのちをまっとうさせたいという親心にも似た情にくるものがあるのだが、そこは最終的な大きな人参を得るため、潔く間引きをしなくてはならない。そのままにしたら期待していたものは何一つ手に入らないからだ。


さて、本書『Coyote No.89 星野道夫 夢見る旅』はタイトルの通り、日本を代表する探検家として知られる星野道夫さんにフォーカスを当てた内容になっている。人と動物が同じことばを話していた時代の記憶を求めて――。

アラスカの大地を旅し続けた写真家・星野道夫。没後30年となる今、その作品と言葉を通して、自然とともに生きることの意味を問い直す。北極圏を舞台にしたフォトストーリー、星野直子ロングインタビュー、池澤夏樹寄稿をはじめ、貴重な証言と写真で構成する保存版特集。

本書を読み進めていると、やはり、人間は自然から作られているということがよくわかる。それは食べたものがカラダになるというフィットネス系のものではなく、もっと残酷で潔い食べる、食べられるというシンプルな関係性がアラスカの大地を舞台にさまざまな視点で語られているのだ。

生かされている、与えられるものとしての生命体である私たち。

最後は個体を放棄して全体を受け入れていく。

現代社会、特に都市生活者にとってはこの感覚はだいぶ昔に薄れてしまっているものだと思う。ぜひ本号でそんな感覚を呼び覚ましていただきたい。

そして、面影 book&craftで写真展を開いてくださったお馴染み赤阪友昭さんの寄稿「極北の精霊 - イヌアの世界 -」も必見だ。人間と動物が互いにその関係を結びながらその循環世界の中でいかに生き延びるかという哲学であるイヌア。目に見えぬものだからこそ、大切にしていきたいものである。



Photo Story「星野道夫 はるかなる氷原」

イヌイットの世界では畏敬の念を込めて「ナヌーク」と呼ばれるホッキョクグマ。氷原に生きるその姿を捉えた作品群を、初めてナヌークと出会った記憶を綴ったエッセイとともにご紹介。


星野道夫への思いを込めた神話の世界

星野のエッセイにもたびたび登場する、アラスカクリンギット族の語り部ボブ・サム。クリンギット族に伝わる神話の継承者として、欧米各地でストーリーテリングをおこなう彼が、星野への思いを込めた新たな神話を紡いだ。


極北の精霊—イヌアの世界—

極北という過酷な大地で生きる人々にとって、狩猟は日々の糧を得る手段であり、しきたりや慣わしの基準でもあった。時代とともに少しずつ変化しながらも、今なお大切に受け継がれる人間と野生動物の物語をドキュメントでひもとく。


星野直子インタビュー「夢見た旅」

星野道夫の没後まもない時期に行われた、妻・星野直子のかけがえのない記憶を紡いだロングインタビュー。


池澤夏樹「ワタリガラスと飛んだ男」

作家・池澤夏樹が星野道夫との記憶を辿るなかで生まれた詩を特別掲載。

絵=下田昌克


傍らの絵本 ユリ・シュルヴィッツへの道

2025年にこの世を去った絵本作家ユリ・シュルヴィッツ。絵本『よあけ』や『ゆき』の作者として知られる彼の生涯とはいったいどのようなものだったのか。妻ポーラ・ブラウンに話を訊いた。


沢木耕太郎インタビュー「『深夜特急』の心残りを回収する旅へ」

作家・沢木耕太郎の新刊『途上の王国 一号線を北上せよ モロッコ天涯編』。今から28年前に書かれたモロッコ紀行に、加筆修正や書き下ろしを加え、著者が撮影したスナップショットをふんだんに盛り込んだ本書。その旅の経緯、タイトルに冠された「途上」の意味を沢木耕太郎自身が語る。

 

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