Coyote No.88 版画家・大谷一良の遺した山々 -山のディヴェルティメント-
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Coyote No.88 版画家・大谷一良の遺した山々 -山のディヴェルティメント- / スイッチ・パブリッシング
こころの象
旅に欠かせないものといえばカメラだ。旅の取材先ではもちろんのこと道中道すがら気になったものがあれば構図などはあまり考えず感覚的に良いと思う画角でシャッターを切る。ただひたすらにシャッターを切るものだから旅の終わり頃には撮影した写真の枚数は1万を優に越すこともしばしば。さあ、その数から選りすぐりのものを見極めてレタッチをかけていき、さらにそのレタッチが済んだものからもう一度本採用の写真を吟味して選ぶ訳だ。そんな枚数があるものだからどうしてこんなものを撮ったのかと思ってしまうことがありそうなのだが、自分の場合そういうことは滅多にない。ボツ写真を見たとて、その写真をひとたび見ればあの時の瞬間というものがこころの中にしっかりと再投影されてくるのだ。
大谷一良さんの版画を見ると、そんな自分の写真のエピソードが思い起こされた。大谷さんは1958年創刊の山の文芸誌『アルプ』の表紙のイラストを版画で長らく手がけられた。その作品ともいうべき版画はどれもリアルな山々の景色を切り取ったものではなく、あくまで一度大谷さんのこころのフィルターを通った後に生み出され創作されたものなのだ。だから、その山を登って見えた景色というよりは、その道中や帰路でこの山を巡る旅が自分にとって何を意味するのかということから表現へと繋がっていくのだろう。
さて、本書『Coyote No.88 版画家・大谷一良の遺した山々 -山のディヴェルティメント-』はそんな大谷一良さんを特集した一冊になっている。哲学者・随筆家の串田孫一や版画家の畦地梅太郎の薫陶を受けスタートした先に挙げた『アルプ』をはじめ、数多くの山岳書の表紙や挿画を手がけるなど、日本の「山の表現」を支えてきた氏。近年ではその作品が、北海道の人気スイーツブランドのパッケージに採用され、若い世代にも再評価が広がっているそう。本号では、大谷が愛したディヴェルティメント(嬉遊曲)になぞらえながら、創作の原点から晩年に至るまでの表現の変遷を多角的にひもとく。「思索としての登山」「山の創作」という文化にあらためて光をあてる、山と表現、そして思索のかたちを一人の表現者の軌跡から探究する一冊となっている。
この一冊を通して自分自身の表現でもある写真と言葉を考えてみると、恐れ多くも大谷さんと同じく自分のこころを通しての象の輪郭をなぞっているということを意識せざるを得ないのだ。
<目次>
特集
版画家・大谷一良の遺した山々
山のディヴェルティメント
写真=門井菊二(特集扉)、ただ
凍れる日
■第1楽章 Allegro 心象の山々
山の幻想組曲
Essay
白い岩と青い空
心を映して山は踊る
──山の表現の変遷
道
Column
山の版画の系譜
畦地梅太郎に私淑して
■第2楽章 Adagio 思索の山々
Essay
あの頃のこと──『アルプ』をめぐる
緑の風が吹く場所へ
復元された二つのアトリエ
文と写真=奥田祐也
追憶の山
版画の設計図・下絵と見比べてみよう
版木と見比べてみよう
Interview
井出裕太 心象の山を彫る現代の作家
文と写真=奥田祐也
Column
表紙を飾った蔵書票
■第3楽章 Menuetto 若き日の山々
Essay
絵具箱
串田先生と交わした手紙
Column
遊び心に満ちた串田孫一の手紙
往復書簡
山と音楽について
串田孫一「山の輪舞」
■第4楽章 Allegro 手の中の山々
本造りの原点
最初の山のかけら
山の気を宿した限定本
Column
本棚は人生を映す鏡
特別挟み込み冊子『ミューレンの夏』
Travelogue
人が織りなす和紙の里を訪ねて
写真=朝岡英輔
The way to Lake District
湖水地方を旅する
写真・文=新井菜津
For Readers
Foxfire
True to nature
Vol.22 八百板浩司
最初の一歩 第88回
大崎清夏
Dialogue
森山大道+石川直樹
やっぱり写真は記録でしかないでしょうと、森山大道は言う。



