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珈琲夜船

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珈琲夜船 / 著者・菅原敏 / 雷鳥社



言葉に投影する、投影される



少し前にサードウェーブコーヒーなどというブームがあった。今もなおその延長線上でそうした有名どころのサードウェーブ系のコーヒーショップで修行をし、その後、独立して新たなコーヒーショップがオープンするケースも少なくない。まだその延長なのだ。もちろんそうしたコーヒーも好きだし日々のコーヒーといったらそうしたコーヒーなのだが、定期的に喫茶店のコーヒーも飲みたくなる。そこで出てくるのは砂糖とミルクを入れないとブラックでは到底飲めな深い焙煎のもの。そしてその苦味の効いた味は、何かしらの哀愁を持ち合わせているように思う。だからといって決してセンチメンタルになりたいからその喫茶店に足を運ぶわけではない。だけれど、先のサードウェーブが気分を高揚させるハイなものであるならば、後者はより鎮静効果があって黒い液体に自分自身を投影しているかのような感覚なのだから、そういうのに浸りたい気分なのかもしれない。



さて本書『珈琲夜船』はそんな時にコーヒーと共にしたい一冊。著者で詩人の菅原敏さんの待望の第4作にあたる本書は珈琲を片手に、見知らぬ夜の旅に出る“小舟”としての詩集になっている。コーヒーの葉を思わせるグリーンの装丁をひらき、頁をめくれば、漆黒の海を一艘の船が漕ぎ出し、どこか懐かしい情景が浮かぶはずだ。

2019年にフランスのナダール賞を受賞した写真家・かじおかみほによる、遠い記憶の断片のような白黒写真は、菅原さんの言葉を形にしたようで詩の世界観を立体的に見せる助けとなっている。

そして菅原さんが紡ぐ言葉は自分自身を投影するコーヒーのようでもある。より自分の状態がよく見える一番色の深く濃いやつだ。そうして見てみよう、そこに投影されたものを。



皿にこぼれ落ちた黒を飲み干せ

祈るよりも歌え その波に飲み込まれ 深い底に沈む前に




<目次>

コロンビア
踊り子
夜船
・・・
タンザニア
台所は今日も雨
ゆれる
国境
夜はやさし
星空に匙
声の氷
句点を置く
無題
冬の秘密
零度
珊瑚礁
夜船
字幕のかけら
あぶみを蹴って街をゆく
Walking Dead〔ほか〕



菅原敏
詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリース。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供、欧米やロシアでの海外公演など幅広く詩を表現。近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。東京藝術大学 非常勤講師

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