チェーホフの庭 / 著者・小林清美 / 群像社
我が庭
面影 book&craftのクラフトの探求をテーマにしたプロジェクト『THE GARDEN』やハイランドレメディーズと一緒に制作している『HASHU』でも言及しているけれど、庭=GARDENの語源はヘブライ語で取り囲むことを意味するganと理想郷を意味するedenが組み合わさったことによって生まれたそうだ。
それ以前は畑で薄々感じていたけれど、実際に昨年から新居の前に広がる庭はそれまでの畑に比べて少し特別なものになってきた。一年目はジャガイモ、里芋、さつまいもと芋系で土壌を少しずつ柔らかくし、後作には空気中の窒素を土に固定化してくれる豆類を播いた。そして2年目となった今年はトマトやピーマン、ナスなどの夏野菜類も旺盛に実りをなしてくれたのだ。野菜だけではない。ベリー類もブラックベリーにマルベリー、リンゴンベリーやシーベリーなどの変わり種もちらほらと。そして忘れてはならない、ストロベリーやブルーベリー、ジューンベリーなんかも豊富に実っている。
まさに語源通りの“囲われた理想郷”の如く姿を変容してくれている。
そしてそういう目に見えた形の実りだけでなく、どこかこころが安らぐようなそういう情緒性も兼ね備えている我が庭なのだ。
「文学者にならなかったら園芸家になっていた気がします」そう手紙に書いたのは、本書『チェーホフの庭』の主人公でもあるロシアの劇作家として知られるチェーホフだ。チェーホフが生まれてはじめて手に入れたモスクワ郊外のメーリホヴォの庭。やがて失われゆく庭の姿にチェーホフの思いをたどり、 庭がよみがえるまでの人びとのドラマやその心情が言葉で表現されている。
チェーホフ作品ゆかりの植物をめぐるエッセイをおさめた大きなロシアの小さな庭の本。
庭には安らぎとときめきがある。
そんなことを感じさせてくれる一冊。
<目次>
『すぐり』と『桜の園』
失われた庭をふたたび
メーリホヴォの庭を訪ねて
トウヒ
松
ライラック
ロマーシカ
ゴボウ
トマト
カノコソウとスズラン
ヤルタの庭
小林清美
ロシアの人びとと植物の関わりをテーマとした文章を数多く執筆し、ロシアの植物を集めた庭づくりにも励む。植物を通してロシアの生活文化と文学に親しみ、仲間とともに季刊誌「リャビンカ・カリンカ」を発行している。上智大学外国語学部ロシア語科卒業


