また旅。 / 著者・岡本仁 / 京阪神エルマガジン社
街の風景と面白み
精力的に海外に行っていた頃を考えてみると、国内の旅を少し軽視していたように思う。異国の地で使い慣れていない言葉でコミュニケーションを取り、伝わった時の嬉しい感覚や自分一人で今まで経験したことのないようなことに出会いそれを乗り越えていくという少しロールプレイングゲームのような感覚で自分の幻想の中のレベルが上がっていくような気でいたりもした。
けれどそんなことは文字通りの幻想であって、それが海外であろうと日本国内であろうと、日常であろうと非日常であろうとさほど変わらない。要はその対象となるものをどのように自分自身が面白がれるのかということでしかないのではなかろうか。日常生活のルーティンの中でも見方を変えれば旅のような気分になれるだろうし、逆に非日常の中でも日常のように過ごすこともできるはずだ。
そういった視点に立ち返ってみると国内の旅も魅力が増してくるはずだ。日常の延長線で捉えていた視点を少し、旅モードにチューニングしてみるとそこから見えてくる街の風景が変わってくる。同じように見えて少し違う、違うように見えて何か同じ感じを抱く。そんなコントラストが自身の好奇心をきっとくすぐってくれることだろう。
さて、本書『また旅。』は編集者の岡本仁さんが、約6年分の全国旅の記録をまとめた『暮しの手帖』誌の長期連載「きょうの買い物」をまとめた一冊。マガジンハウスやランドスケーププロダクツで活躍している岡本さんの視点やカルチャー感を存分に味わえる内容となっている。
掲載エリアの長崎・大阪・松山・旭川・鎌倉・京都・鳥取・高知・盛岡・日田・新潟・奈良・金沢・札幌・山形・唐津・秋田・神戸・尾道・富山・名古屋・上田・浜松、どの街も色があり風景がある。そんな場所場所を岡本さんが面白がっている様子が字面や写真から漏れでているのが旅の感覚を呼び起こしてくれることは間違いなさそうだ。
岡本仁
1954年、北海道夕張市生まれ。
大学卒業後にテレビ局を経てマガジンハウスに入社。雑誌『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わる。
2009年よりランドスケーププロダクツにてプランニングや編集を担当。
『今日の買い物』(岡本敬子との共著、プチグラパブリッシング刊)、『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』(ランドスケーププロダクツ刊)『果てしのない本の話』(本の雑誌社刊)『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』(小社刊)など著書多数。
