里地里山文化論〈上〉循環型社会の基層と形成 / 著者・養父 志乃夫 / 農山漁村文化協会
在りし日の生活
本書『里地里山文化論』のページをめくっていると、普段はあまり意識していなかったが自分が今住んでいる場所というのは里山もしくは里地と言っていいのではないかと思った。
特に今年からは稲作をやっていることもあり、やたら周りの稲が気になってくる。自宅の周りも田んぼが広がり、四季折々の彩りを目にしていることもあるのだが、今年は特に意識がそちらに向いていることもあり、つい風景について考えてしまう。
収穫の頃はハザ掛けが至る所で始まり、金色に色づいた稲穂が逆さに吊るされ最後の仕上げになる。中秋の名月の満月に近い夜、月夜にてらされたハザ掛けしてある稲穂を眺めれば、それが令和の時代なのか、江戸時代なのか、はたまた縄文時代なのかと思ってしまうほど、きっとこのあたりの風景というものは先人たちから続いているものなのだとしみじみと感じられるのだ。
冬の終わりに蕗のとうを摘みにいき、春になれば畑の脇の竹林からは筍がたくさん取れ、その竹を支柱にして栽培した夏野菜を旺盛に食し、秋になれば里山のきのこに舌鼓を打つ。冬は冬で里山の間伐材を斧を振って薪にする。
一つ一つの道具の精度やそれに伴う生活様式などは多少の差はあれど、生活のリズムなどの構造に注目してみれば在りし日の生活とさほど変わらないのでは無いだろうか。少なくとこの自然の循環の中で生きている人間を自然側からの視点で見て考えてみれば、私たち人間の生き方などはちっとも変わりは無いのかもしれない。
本書『里地里山文化論<上>』では、日本文化の基層となる部分のヒントにこの里地、里山で育まれてきた人間の営みに注目し、歴史的な流れを踏まえながらまとめた一冊だ。教科書で習う日本史が貴族や武士側からの世界であるならば、本書は生活者の歴史といっても過言では無い。ヒトが生かされヒトが育んできた里地里山文化、その3000年の歴史をたどり、東アジアにその源流を訪ねる。
<目次>
第1章 里地里山とは何か(里地里山の概観;里地里山と奥山との関係)
第2章 「里地里山文化」形成史(リス氷期と最終氷期―生態系の基層形成;縄文時代―里地里山の基層形成;弥生時代―里地里山の発祥;里地里山文化の展開)
第3章 里地里山の源流―東アジアの暮らしと生態系(長江支流漢江流域―野生トキが生息する陝西省洋県の暮らしと生態系;長江中下流域―日本と酷似する湖北省武漢市郊外の農村の暮らしと生態系;渡来人が出航した青島―山東省膠南市郊外の農村の暮らしと生態系;旧満州・遼東半島―近代化する遼寧省大連市郊外の農村の暮らしと生態系;韓国最南端、対岸は日本列島―麗水市郊外の農村の暮らしと生態系)
第4章 日本列島の暮らしと自然を支えた里地里山文化(里地里山文化の伝来と発展;里地里山文化の現代的展開に向けて)
養父 志乃夫
日本の農学者・環境学者・造園学者。専門は、自然生態環境工学。和歌山大学システム工学部環境システム学科自然環境システム大講座及び大学院システム工学研究科博士後期課程指導教授。大阪府出身。 平成2年から3年までNHKラジオ「子ども科学電話相談室」解説者をつとめる。 一般社団法人MIT顧問。



