古代から来た未来人 折口信夫 増補新版 / 著者・中沢新一 / 筑摩書房
過去からの贈り物
東京にいた頃には考えられない生活をしている。
就寝時間も23時くらいだったのも21時前後に変わり、起床も4時30分と実に健康的な生活となった。起き抜けに畑までに行き今日やらなくてはならない作業を確認し野菜たちの生育を鑑みながら必要なことだけ手を加えていく。そんなことを1時間ほどやり、一日のリズムを作っていくのだ。東京時代の自分はまだ夢の中の時間にこうして日常の中のスイッチを入れることの豊かさを知った今では、当時の生活スタイルに戻るということは難しいはずだ。
冬になれば薪をやる。流石に原木の伐採などまでは手を出せていないけれど、伐採されたものを薪割りのやりやすい玉切りサイズにチェーンソーでカットする。東京時代はチェーンソーの音すら聞いてことがなかったのにだ。
こうした変化を改めて考えてみると、自分の中に入っている魂レベルで昔の自分とは別人がやって来たような気がするし、仮にタイムスリップして江戸時代の農村などに生きている舞台が変わってもそに事実には慄くものの、しっかりと順応していけそうな気さえするから、面白い。
移住後、もう6年目となり、本当の意味での豊かさというものを実感している。
文明やテクノロジーが発達したとて、人間本来が生きる上で充実感を感じることは古代の人たちが感じていたこととそんなに変わらないのではないかと正直思うのだ。
古代に思いを馳せてみよう。
そんな時におすすめの一冊が本書『古代から来た未来人 折口信夫 増補新版』だ。思想家で人類学者、そして知の巨人とも言える中沢新一さんが古代研究に精通した思想家の折口信夫について分析、研究した内容をまとめているこの一冊。若い頃から彼の文章に惹かれてきた中沢さんが、その未来的な思想を鮮やかに描き出す。「自分が読み続けてきた折口信夫の学問をまるごとつかみとり、その中から二十一世紀の日本人の思想として生き続けるにちがいないと思われる、彼の思想のエッセンスを取り出す」と語るように流石の分析力で私たち日本人が無意識にやっている行動やその時に感じる感覚などを丁寧に読み解いている。
「古きを知り、新しきを知る」という言葉があるように私たちは過去から学ぶ姿勢をいつまでも持っていたいものである。
<目次>
序文 奇跡のような学問
第一章 「古代人」の心を知る
「いま」を生きられない人/「古代」の広がりと深さ/文字の奥を見通す眼/姿を変化する「タマ」/精霊ふゆる「ふゆ」/文学も宗教も突き抜けた思考
第二章 「まれびと」の発見
折口と柳田──「神」をめぐる視点/「まれびと」論の原点/「南洋」へのノスタルジー/「あの世=生命の根源」への憧れ
第三章 芸能史という宝物庫
芸能史を再構成した二人/芸能者への奇妙な共感/苛酷な旅からつかんだもの/芸能とは「不穏」なものである/不穏だからこそ「芸能」を愛す
〈コラム〉 大阪人折口信夫
第四章 未来で待つ人
とびきりの新しさ/死霊は踊る/「あの世」への扉が開かれるとき/高野山と二上山とを結ぶ線/「日本」を超え「人類」を見る眼
第五章 大いなる転回
キリスト教との対話/未成立の宗教/「神道の宗教化」という主題/超宗教としての神道へ
第六章 心の未来のための設計図
神道の新しい方向/ムスビの神/三位一体の構造/折口のヴィジョン
ムスビの神による人類教
天竜川という宝庫
折口信夫 略年譜
解説 いつも心に折口信夫 持田叙子
中沢 新一
1950年山梨県生まれ。思想家・人類学者。沖縄・奄美諸島の調査を経て、インド・ネパールでチベット仏教を学ぶ。帰国後、人類の思考全般を視野に入れた新しい知のあり方を提唱し、人類学のみならず、歴史、哲学、民俗学、経済学、自然科学などの分野にまたがる広汎な研究に従事する。中央大学教授、多摩美術大学芸術人類学研究所所長、明治大学野生の科学研究所所長などを歴任。現在は京都大学人と社会の未来研究院特任教授、秋田公立美術大学客員教授を兼任。主な著書に、『カイエ・ソバージュ』(1~5巻)、『アースダイバー』、『精霊の王』、『悪党的思考』がある。


