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mahora 第6号

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mahora 第6号 / 編集・発行人・岡澤浩太郎 / 八燿堂



芸術以前




子育てをしていると人類、いやともすると生命体としての生物の過程の歴史を辿っているのだということが、この文字で書いている以上に実感できてきます。
特に生まれてからは人類の歩みとなり、『あー』とか『うー』とか言葉にならない音で意思疎通を図り、そして何かが通じ合う喜びを実感することで、『あっか!(うちの息子が言うりんごを指す言葉)』など独自の言葉を生み出し、それが社会的な関わりが広がっていくことで標準化されていくことで私たちが日々使っていく言葉になっていくのです。

そして日々できることが増えていく喜びと我が子が自分たちのチカラを借りなくとも色々できていく物悲しさを感じながら、これらの出来事を振り返ってみると、人には意識(動物として生き物としての生命の本能部分)と意思の二つが絶妙に混ざり合い、日常生活を営んでいるということがわかります。
その意思というまだ頭の中で広がる無限の可能性を秘めているイメージソースを身体機能を使って具現化し、言葉や遊び、ゆくゆくは仕事などの目に見えていくカタチを創っていくことができていくのでしょう。


そんなことを考えることの多い今日この頃。
この『mahora 第6号』を手に取りました。


本書『mahora』は太古の自然や秘跡、現代の日常や暮らし、宇宙の営為や人間の手仕事などあらゆる生命の豊かさや美しさ、時代に寄らない本質的なあり方をホリスティックな観点で集め、祝福する、八燿堂の精神的な基幹となる刊行物です。


創刊以来初めて特集を設けた本号のテーマは「芸術以前」。

人が何かを生み出すそれ以前にどのような意思、そして思考が繰り広げられているのかというかなりチャレンジングなテーマ設定となっています。自分もこうして文章を日々書いている身、書いている本人ですらこの言葉や文脈がどこからきているのかよくわからないのが現実なので、とても興味深いテーマです。


さて本書で言う「芸術」とは、貨幣経済・後期資本主義や学術的権威との結びつきや文脈化、それらによって生じたヒエラルキーと、それを前提につくりあげられた制度そのもの、構造全体を指します。

本特集では、3人の論者と4人の創作者の表現を通して、そうした「芸術」が生まれる前の姿を探ります。人間にとって、創作とは、美とは、何か、生命はなぜ、生命以外の存在を生みだしたのか、無から有が立ち上がる瞬間に、何が起こっているのか――何らかのヒントになれば幸いです。


その他、美術家・安野谷昌穂さんによる詩の創作、音楽家・アーティストの蓮沼執太さんによる長野県小海町の滞在制作記、耕作放棄地を「100年続く森」へと野生化を図る上原寿香さんのエッセイなどを収録。また、本をめぐる取材記事では書店をはじめとする「本のある場所」の歴史と現在を探りました(取材協力=曲線、白線文庫、普遍と静謐、MOUNT COFFEE)。



そして編集後記では、編集・発行人の岡澤浩太郎さんが生まれて初めて書いた詩が掲載されているのも必見です。


人類史をなぞっていくテーマ。今号も大切に何度も何度も読み返してみたくなる、振り返ってみたくなるような一冊です。



<目次>


■私の光

安野谷昌穂=文

■一〇〇〇年の森の一日

上原寿香=文 中緒公志=写真

■見えない海

蓮沼執太=文


[特集]芸術以前

■むすひのみこともち――藝術以前の「藝術」について

江尻潔=文

■グレート・コックスウェルの納屋とウィリアム・モリス

土田眞紀=文

■世界認識としての藝術 人の歴史の階梯を辿る

芳賀満=文

■創作の風景

榊仁胡、居相大輝、伏木庸平、榊智子=文・アートワーク


■本のある場所

岡澤浩太郎=文・取材


■[連載]Memoriae

第三回 父と庭といくつかの会話

ジョアンナ・タガダ・ホフベック=文・アートワーク

金沢みなみ=翻訳・編集協力

■[今号の結び]稲穂結び

関根みゆき=文


編集後記に代えて




判型=四六判変形

頁数=120頁

定価=3,800円(消費税/送料別)

ISBN=978-4-908636-07-3


発行=八燿堂

編集/発行人=岡澤浩太郎

結び監修=関根みゆき

デザイン=須山悠里

 

mahora
「mahora(まほら)」とは、美しい場所、すぐれた場所を意味する古語。
こう言うと、どこか遠くの理想郷のように感じるかもしれません。
けれども実は、私たちが日々暮らし、生活する場所に、“美” はすでに、散りばめられているのだと、思います。
毎朝の食事、家の小さな仕事、その日に着る服、庭や窓辺の草花、部屋にたたずむ絵や置物、テーブルの上の誰かの手仕事、親しい人との会話、四季の風景、風の鳴る音、鳥の声――

これらを “美しい” と思う気持ちは、きっと、ずっとずっと遠い昔から繰り返され、やがてまだ見ぬ誰かも、繰り返していくのでしょう。
言葉を換えれば、人は美を感じる時、近くにいる、そして遠くにいる、誰かや何かと、そっとつながることが、できるのです。

『mahora』は、美術や服飾、工芸や手仕事、伝統文化や民俗学、自然の風土や農や土、太古の知恵や日々の暮らし、といった広い領域を、“美” というあり方を通して、横断し、つなぎ、見渡していきます。

この本に散りばめられた “美” が、自然や時の流れと結ばれる、ささやかな扉になることを、願います。



八燿堂
2018年に活動を開始、201911月に東京から長野県小海町にある小さな集落に移住しました。大量生産・大量消費・大量廃棄の現在の出版業界の構造とは異なる、少部数・直接取引の形態をとりながら、文化的・環境的・地域経済的に持続可能な出版活動を模索しています。

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