Elinas Forest / 津田直 / handpicked
足を止め、見えてくるもの
現代社会はあらゆる繋がりが希薄になっている、こんなことを感じるのは私だけだろうか。インターネットやSNSなどが広がり、世の中のありとあらゆる情報が一つのスクリーンの中に集約している今日この頃。その気になれば地球の裏側の出来事であっても、ものの数秒でそれらは写真や映像でシェアされ、我々の眼前に浮かび上がり、あたかも自分の目の前で起こっているかのような錯覚に陥いることだろう。けれど、これらは果たして本当に起こった出来事なのだろうか、そう疑いたくなってしまうこともある。画面越しの世界は、現実味という確かな肌感覚に乏しいままに、煌々と写し出されているのだ。
写真家・津田直さんは、写真家としての活動の中で現地に赴き、その瞬間、その場所でしか見ることのできない世界を写真で捉えてきた。『TRAIL LEARNING』という歩くことそしてそこから学ぶことについてまとめられた書籍の中で津田さんは「足を止めるからこそ見えてくるものがあって、その遅さがもたらしてくれた気づきが、密に生きることへと導いてくれる」と語っている。
そうなのだ。私たちはどこか毎日を生き急ぎ、新しいものや特別な出来事にだけ価値であると勘違いをしてしまっているのだ。
本書『Elinas Forest』の舞台は、ヨーロッパの小さな国、リトアニア。歩くことを通して、自然と人間との関係にひとつの文化として向き合い続けてきた津田さんは、このリトアニアの古より受け継がれてきた夏至祭までのひと時を4年にわたり旅を続け、そしてその地で足を止め何度も撮影をしてきた。本書はそれらをまとめた写真集だ。
ページをめくると4年もの撮影期間があったことを忘れてしまうような、高緯度の地域特有の美しい光、そして一年の中で陽が長い瞬間をとらえた写真が迎えてくれる。そしてその間にそっと認めている言葉の一つ一つは、上質なドキュメンタリーを見せてもらっているようなマインドセットへと促してくれる。その表現からは、古より途切れることなくみえない糸として受け継がれてきたリトアニアの自然や人々への敬意を感じ取ることができるはずだ。
この一冊にまとまっている写真を一言で『文化』や『風習』と言ってしまうのは野暮なこと。その場所で起こっている出来事や大切な何かを、余白を持つ写真で表現するということが、この大切な何かを伝えていくという上で一番いい方法なのだろう。
処女作『近づく』で「撮ること=その瞬間だけslowになるということ」とも津田さんは語っている。
足を止め、もう少し大切なものを見て感じてみたくなるような、そんな一冊。
※ポッドキャスト『面影飛行』では、さらに詳しくこちらのアートブックについて語っています。あわせてお楽しみください!
津田直
1976 年神戸生まれ。2001 年より多数の展覧会を中心に活動。
2010 年、芸術 選奨新人賞美術部門受賞。大阪芸術大学客員教授。主な作品集に『漕』(主水書房)、 『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)など多数。
写真集概要
デザイン:須山悠里
発行:handpicked
仕様:A4変形判(H290mm×W200mm) 上製本 128ページ フルカラー(日英)