TRAIL LEARNINGー未知を拓く冒険「歩く」 / 監修・田口 康大、ルーカス B.B. / みなとラボ出版
道を学ぶ
日本には、茶道、花道、武道といった〇〇道という言葉がある。この〇〇道という時に使う『道』というキーワードは、その〇〇を極めた先にあるもの、そしてその極めた先に向かう中で出会う気付きやひらめきといったプロセス全体を包含するように思う。この『道』という概念は非常に日本人としての生き方や精神性に通じるのではないだろうか。職人のように一つのことをとことん突き詰めていくけれど、時代の変化や他のアイデアなどにも影響を受け順応していきながら、未だ見ぬ『道』を切り拓いていく感覚なのだろう。この『道』という日本人独特の概念は、日本人以外の方たちとコミュニケーションを取ってみるとより強く感じ、それこそ日本人として誇るべき概念なのではないかと感じるのだ。
本書は、世界で初めて「TRAIL LEARNING(トレイル・ラーニング)」をコンセプトに掲げた一冊です。
歩くことは単なる移動手段ではなく、人間の思考や創造性を深める行為です。古代ギリシャの哲学者たちは歩きながら議論を重ね、巡礼者たちは旅を通して自分自身と向き合ってきました。私たちもまた、歩くことで新たな洞察を得て、次の一歩を踏み出してきたのです。
さて本書『TRAIL LEARNINGー未知を拓く冒険「歩く」』の企画・編集を手がけたのは、ルーカス B.B.(『PAPERSKY』編集長)と田口康大(3710Lab代表)。ルーカスさんは日本各地の旅を発信する中で、「自分で道をつくる」可能性を模索し、その発想から静岡県焼津市を起点とする「KATSUO TRAIL(カツオトレイル)」を生み出した。一方、田口さんは「海と自分とのつながり」をテーマに70以上の海洋教育プロジェクトを展開。
この二人の対話から、「歩くこと」と「学ぶこと」を結びつける発想が生まれ、本書のコンセプトが確立された。かつて、歩くことは生活の一部であり、思考や創造の原動力であった。その「歩くことの価値」をあらためて見つめ直し、それを文化として共有することこそが本書のタイトルにもなっている『TRAIL LEARNING』の本質であると本書では語られている。
ページをめくればデザイナー、詩人、アーティスト、写真家など、自ら道を切り拓く13名のクリエイターが自身がそれぞれの視点で「歩くこと」の魅力を紐解く内容に。彼ら彼女らのストーリーを通じて、歩くことがどのように思考を深め、新たな創造を生み出すのかを探求しながら、あなた自身の「歩く意味」を見つけるきっかけとなる一冊だろう。そして巻末にルーカスさんと田口さんの対談の中で触れられている、learningの語源が『足跡』や『轍』であるというところもグッとくるポイントなのではないだろうか。
歩くことで得られる気づきやインスピレーションを体感し、自分自身と向き合う。
道を考え、道から学ぶ。
歩みを進めることで広がる世界の中で、新たな学びと発見を楽しめる一冊。
<目次>
・THE BEGINNING OF TRAIL LEARNING:トレイル・ラーニングの始まり
Lucas B.B. & KODAI TAGUCHI
・LEARNING IS MAKING YOUR TRAIL:学びとは道を作ること
KODAI TAGUCHI
・TRAIL LEARNERS SIDE A 6人の歩く物語
01 NAOKI ISHIKAWA 石川 直樹(写真家)
02 SAE HONDA 本多 沙映(デザイナー/アーティスト)
03 KEIJIRO SUGA 管 啓次郎(詩人)
04 MISA MURATA 村田 美沙(アーティスト/Verseau 主宰)
05 ERIKO KISHIMOTO 岸本 恵理子(出張料理人)
06 KAZUKI NODA ノダ カズキ(ネイチャーガイド)
・WALKING THE KATSUO TRAIL WITH NAO TSUDA
津田直と歩く、海から始まるカツオトレイル
・THE KATSUO TRAIL A LONG TRAIL FOUNDED ON THE PRINCIPLES OF LEARNING AND WISDOM
カツオ・トレイル―学びと知恵が息づくロングトレイルをつくる
・TRAIL LEARNERS SIDE B 6人の歩く物語
06 KATSUNOBU YOSHIDA 吉田 勝信(採集者・デザイナー・プリンター)
05 MOMOKO KUDO 工藤 桃子(建築家)
04 DAICHI MOTOKI 元起 大智(極地カメラマン)
03 KON ITO 伊藤 紺(歌人)
02 WATARU KUMANO 熊野 亘(プロダクトデザイナー)
01 YUKARI OTA 大田 由香梨(ライフスタイリスト)
・WEAVING THE STORY OF TRAIL LEARNING:トレイル・ラーニングの物語を紡ぐ
ルーカス B.B. & 田口康大
田口康大
1983年青森県生まれ、秋田県、宮城県育ち。東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師。教育学、教育人間学を専門とし、人間と教育の関係について研究している。2015年には、「海と人とを学びでつなぐ」をテーマに次世代の教育について考える一般社団法人3710Lab(みなとラボ)を立ち上げ、代表理事も務める。学校と協働した教育プロジェクトを数多く手掛け、著書に、鹿児島県立与論高校の授業で制作した『与論の日々』などがある。
ルーカス B.B.
1971年、アメリカ、メリーランド州で生まれ、サンフランシスコで育つ。編集者。1993年、カリフォルニア大学を卒業後、来日。1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』を創刊。2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊し、現在まで編集長として発刊を続ける。旧街道を歩くことをライフワークとし、日本中の街道をロングハイクしている。現在は焼津と東京の二拠点生活を送っている。