新版 野の道ー宮沢賢治という夢を歩く / 著者・山尾三省 / 新泉社
今ここにたしかにあるもの
本書は山尾三省による宮沢賢治の解説書、ではなく、賢治が歩いたと思われる「野の道」に三省が自らの「野の道」を重ね合わせ、思索をしたエッセイ集。
「野の道」について、三省はこう書いている。
「野の道とは、一体感を尋ねる道であると私は思っている。一体感とは、包むことと包まれることの自我が消え去り、静かな喜びだけが実在する場の感覚のことである。」(17Pより引用)
三省は常に「今ここ」に生きている人だったと思う。
一輪の花に、一本の木に、吹き抜ける風に、その瞬間瞬間を感じ取り、それこそが真実であるかのように、「今ここ」に世界を見出してきた人。
私はあなたで、あなたは私。
宇宙や自然と私も一体であること。
屋久島で自然を見つめ、暮らしを見つめ、日々の中から宇宙の本質や人の幸福について言葉で記してきた三省が約40年先を生きていた賢治の作品に寄り添いながら、自我とは、百姓とは、詩とは、現代文明とは、様々な視点から深く深く語った一冊。
山尾三省をとおして見る宮沢賢治像を頭の片隅に思い浮かべながら、宮沢賢治の作品を改めて読んでみたくなる。
二人の「野の人」が交わる、夢の競演。
さらには序文に社会学者の真木悠介、解説に文化人類学者の今福隆太とこちらも豪華な顔ぶれ。
自分の人生の糧となるような大切な言葉を本書から拾い集めて、そして「私」の野の道を作っていきたい。
<目次>
呼応 真木悠介
きれいにすきとおった風
マグノリアの木
腐植質中の無機成分の植物に対する価値
祀られざるも神には神の身土がある
ぎちぎちと鳴る汚い掌
野の師父
玄米四合
み祭り三日
野の道
土遊び、風遊び、星遊び 今福龍太
山尾三省
1938年、東京・神田に生まれる。早稲田大学文学部西洋哲学科中退。67年、「部族」と称する対抗文化コミューン運動を起こす。73~74年、インド・ネパールの聖地を一年間巡礼。75年、東京・西荻窪のほびっと村の創立に参加し、無農薬野菜の販売を手がける。77年、家族とともに屋久島の一湊白川山に移住し、耕し、詩作し、祈る暮らしを続ける。2001年8月28日、逝去