心はどこへ消えた? / 著者・東畑開人 / 文藝春秋
大きな物語→小さな物語
本書は臨床心理学を専門にしている東畑開人さんが、2020年5月から2021年4月までの間、週刊文春の「心はつらいよ」というタイトルで連載をしていたコラムを再編集してまとめた一冊です。
東畑さんはこの仕事の依頼を受けた際には、週刊文春ということもあり、芸能人のゴシップやスキャンダルなどバッサバッサと臨床心理学の視点で切っていくことを考えていたそうですが、実際は世界的に起こってしまった騒動やそれに伴った悩みなどについて考えていくというスタイルに変更して筆を進めたそうです。
改めてこの時期のことを振り返ってみると、外出自粛などみんなのために何か行動を強いられることがあり、裏を返せば一人ひとりが本来持っているそれぞれ異なる心を抑圧させて、無くした状態にしていたということが、はじめにで触れられており、ハッとさせられました。そうです。それが心が消えてしまった状態なのです。
そして一人ひとりが自分の心を無くし、他の誰かが決めた未来を生きるということは、自分が思い描いた未来も同時にないということにもなります。
こうして文字にしてみると、なんかもうどうしようもないのかなと感じてしまいますが、誰かが決めた大きい物語から自分の気づきや発見、ちょっとした嬉しさや楽しさを紡いだ小さな物語を歩んでいくことが心を見つけ出す唯一の手がかりになるのだと感じました。
改めてこの時期を振り返る時の補助線になってくれる一冊です。
あなたの心はあなたにありますか?
<目次>
春(バジーさんが転んだ;メールで卓球 ほか)
夏(補欠の品格;補欠の人格 ほか)
秋(午前4時の言葉たち;雑談賛歌 ほか)
冬(中学受験の神様;ハルマゲドンの後で ほか)
また、春(孤独の形;段ボール国家 ほか)
東畑開人
臨床心理士・公認心理師。博士(教育学)。1983年生まれ。2010年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。精神科クリニックでの勤務を経て、14年より十文字学園女子大学に勤務、現在准教授。17年に白金高輪カウンセリングルームを開業。著書『居るのはつらいよ』(医学書院)で第19回大佛次郎論壇賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)