道具と料理 / 著者・相場正一郎 / mille books
料理人の道具
僕は料理屋に行く時に好きな場所がある。それは厨房前のカウンター席。
料理人たちとはカウンターの板一枚を隔てただけなのに、こちら側とあちら側とでは見えている世界が全く異なる不思議な空間に魅了されるのだ。
まだ会社員だった時、勤め先が埼玉だったけれど、よく富ヶ谷のイタリアン『LIFE』で食事をすることが多かった。プライベートの友達や仕事意外の活動の仲間がその周辺にいたりして、カジュアルに使えて他のお客様たちもあまり気にならない空間が特に好きだった。もちろん一人でランチをする時もよく使っていた。その時は決まってカウンター席で食事をした。食器を重ねた時に聞こえるカチャっという響き、ウェイターがカトラリーを席の人数分用意するためにそれらが奏でる音、オリーブオイルで何かが炒められる音。こうした音楽ライブを見ているかのようなサウンドが響き渡り、厨房の全貌は見えないものの一部見える断片と奏でられているその音を頼りに、想像を膨らませるのだ。そこではどんな調理器具や道具がどのように使われているのだろうか。いつのまにかオーダーした料理よりもそちらの方が気になって仕方がなくなってしまうのだった。料理人の道具への憧れというやつだ。
さて、本書『道具と料理』はこの『LIFE』のオーナー・相場正一郎さんが長年に渡り愛用してきた、食にまつわる38 の道具の物語とその道具で誰でも手軽に美味しくできる38の絶品イタリアンを愛機のライカで自ら撮影した写真と簡単なレシピを丁寧に綴った一冊だ。
この一冊を読めば、また『LIFE』に行った時により具体的な想像になること間違いなしだろう。憧れがちょっと近づいた気がした。
<目次>
第1章 食を生み出す道具(タークのフライパン;豚肩ロースの香草ソテー;タークのグリルパン ほか)
第2章 食を彩る道具(サタルニアのプレート;生ハムメロン;ボデガのグラス ほか)
第3章 食と暮らしを繋が道具(ホールフーズマーケットのバッグ;マグロとサーモンのポキ丼;思い出の腕時計 ほか)
相場正一郎
1975年栃木県生まれ。1994年~1999年にイタリアのトスカーナ地方で料理修行。東京都内のイタリアンレストランで店長兼シェフとして勤務した後、2003年東京・代々木公園駅にカジュアルイタリアン「LIFE」をオープン。全国で4店舗のレストランを運営しており、カルチャーを作る飲食店としても注目を集めている。主な著書に『山の家のイタリアン』、『30日のイタリアン』、『30日のパスタ』(ミルブックス)、『世界でいちばん居心地のいい店のつくり方』(筑摩書房)、『LIFEのかんたんイタリアン』(マイナビ)がある。二児の父親であり、週末は家族で栃木県那須町にある山の家で暮らす二拠点生活を送っている。