灯台へ / 著者・ヴァージニア・ウルフ、翻訳・鴻巣友季子 / 新潮社
噛み合わない日常
日常生活を一緒に過ごす家族といえど、何もかもがスムーズに意思疎通できるということはありません。こうして欲しい、ああして欲しいということがなぜか伝わらず、互いに意固地になってしまい防戦一方。でもそれらの歯車が噛み合わず、焦ったい気持ちそのものが誰かと生きていくという本質なのだと思います。
本書『灯台へ』はスコットランドの小さな島の別荘で灯台を目指す中での家族のやり取りを描いた一作です。「ええ、いいですとも。あした、晴れるようならね」スコットランドの小さな島の別荘で、哲学者ラムジー氏の妻は末息子に約束した。少年は夜通し輝くあの夢の塔に行けると胸を躍らせる。そして十年の時が過ぎ、第一次大戦で一家は息子の一人を失い、再び別荘に集うーー。たった二日間のできごとだけで愛のゆるぎない力を描き出すことによって文学史を永遠に塗り替え、女性作家の地歩をも確立した英文学の傑作。誰かと誰かが関わることで生まれる不器用な心情の重なりと幸せを考えてみるきっかけになる一冊です。
ヴァージニア・ウルフ
(1882-1941)英国ロンドン生れ。父は著名な文芸批評家レズリー・スティーヴン。はやくから「ブルームズベリー・グループ」という知識人のグループを形成し、自らは文学を志す。1915年、最初の長篇小説『船出』でデビューを果たし、『ジェイコブの部屋』や『ダロウェイ夫人』以後、実験的な手法によって文学の可能性を切り開く。主著『灯台へ』『オーランドー』のほか、女性の地位向上を訴えた『自分ひとりの部屋』などのエッセイも遺した。