カフェの設計学 計画とディテール / 著者・加藤 匡毅、Puddle / 学芸出版社
日常と非日常
会社員をしていた頃に、よく打ち合わせをしていた。
誰と打ち合わせをしていたかというと“自分”と打ち合わせだった。打ち合わせ場所として設定したのが、そこころの自宅の近くの最寄りから一番近い繁華街であった国分寺周辺で行っていた。
甚五郎という大正・昭和のレトロな看板が内装に施された武蔵野うどんのメッカのような場所で空腹を満たしてから雑居ビルの2Fにあったカフェに入るというお決まりのコースだった。
仕事帰りということもあったので、コーヒーなどのカフェインの入っていないファイヤーキングのカップに注がれたジンジャーほにゃららをよく頼んでいたように思う。そこでやることはというと、今の自分にできること、しなければならないこと、やりたいことを書き出し、それらが交差する接点をひたすら考えるということをノートとペンを使って行っていた。
店内にはそれこそ友人たちと集まり、楽しそうに語らい合う集団や恋人たちと思わきし人たちなど、多様な人たちが集まりいつも賑わっていたように思う。決して静かな環境ではなかったものの、ノートを目の前にして自分自身と向き合う、ある種の儀式を執り行うには最適でとても集中できた。その場所は、会社員という決まった答えに対してどれだけ最短で辿り着くかというゲームの中の日常から解放されて、どんな答えになるかわからないこれからの人生を計画しているいわば作戦会議は十分に非日常を感じることができる、スイッチのような場所だったのだ。
さて、本書『カフェの設計学 計画とディテール』は、カフェ設計の第一人者であるPuddle・加藤匡毅氏が国内の魅力的なカフェを規模別(S・M・L・XL)に15件セレクトした図面集だ。
居心地の良い空間が周辺環境にどのように溶け込み、そこで働く人やカフェを訪れた人たちがどのような感覚になることを想定して設計されているかなどが、設計図面とともに語られているのが印象的な一冊になっている。
考えてみれば先に述べた作戦会議に使っていたカフェも誰かが設計に携わっており、日常から非日常に切り替えたくなる、もしくはそれを促してくれる空間づくりがされていたのだと、本書を一読すると納得がいくことだろう。
平・断面図、展開図、キッチン・カウンター周りの詳細図等や写真に各設計者自身がこだわりを書きおろしているのも魅力的なポイント。加藤氏流「カフェ設計のポイント」も紹介。カフェや“カフェ的”空間、いわゆる人が集まる空間の設計者には必携の一冊。
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本書は、前著で伝えたカフェの哲学や魅力をさらに一歩掘り下げ、計画からディテールに至るまでの設計手法にフォーカスした15事例を収録しています。各事例は規模別(S・M・L・XL)に分類し、設計者の思考や工夫を図面と写真から読み解ける内容です。カフェや“カフェ的”空間の設計者にとって必携の図面資料集となっています。
本書は、空間デザイナー、建築家、学生、カフェオーナー、カフェプロデューサーなど、カフェの運営や設計に関わる専門的な視点を持つ方々に特に手に取っていただきたい一冊です。
加藤 匡毅(Puddle)
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<目次>
・まえがき
・「 カフェらしさ」ってなんだ?
・ 意匠と機能の両方からカフェの空間を読み解く
・1部 実務から振り返るカフェ設計のポイント
・2部 事例図面集
1章 Small(~50平米
2章 Medium(51~100平米)
3章 Large(101~200平米)
4章 XLarge(201平米~)
・掲載店舗情報
・あとがき「設計の領域を拡張するカフェ」
加藤匡毅
一級建築士。工学院大学建築学科卒業。隈研吾建築都市設計事務所、IDEEなどを経て、2012年Puddle設立。横浜市金沢区で幼少期を過ごし、歴史的建造物と新造された都市計画双方から影響を受ける。これまで15を超える国と地域で建築、インテリアを設計。各土地で育まれた素材を用い、人の手によってつくられた美しく変化していく空間設計を通し、そこで過ごす人の心地良さを探求し続ける。



