キャラヴァンは進む:銀河を渡るⅠ / 著者・沢木耕太郎 / 新潮社
旅の香り
20代の頃は本当によく旅をした。まだ羽田空港から国際線があまりなかった頃だったので、旅の出発地点はいつも成田空港。空港近くのホテルに一泊するのがお決まりのコースだったので、新宿駅から成田エクスプレスの終電に乗り込んだり、大崎駅から高速バスに乗り込んだりと、そんなことを2ヶ月に一回のペースでやっていた時もあったので、我ながらよくもまあそんな体力とバイタリティがあったものだと感心してしまう。
そういう気持ちにさせてくれたのは、僕にとっては異国の地への期待というよりもその前段にある空港の出発ロビーにある離発着の時刻表だったような気がする。その気になれば旅の目的地にしていない場所へも飛ぶことができるという、何かしらの自由と解放の気分をいつだって抱かせてくれるからだ。特に海外の空港のそれは普段見慣れない土地へと出発するものなどもあるので、スマホで調べてはどんな土地なのかということを妄想しながら時間を潰し、自分のフライトを待つこともあった。いずれにしても、僕はきっとその旅が始まる空気感、香りがとても好きだし、そうした香りが活力となっていた節がある。そろそろそうした香りを感じる時がまたきたのかもしれない。
さて、そんな自分の旅の感覚を思い起こさせてくれたのがこの一冊『キャラヴァンは進む:銀河を渡るⅠ』だ。言わずもがなな旅人・沢木耕太郎さんの旅のエッセイをまとめた一冊。一人旅をしていると自分自身と対話を続けるという時間が長くなってくるのだが、沢木さんの文章はいつだって、そんなこころの声を反芻するような感覚を覚えるものだ。
旅を学ぶとは人を学ぶということであり、世界を学ぶということでもあった——。
と氏は語る。
『深夜特急』では訪れなかったモロッコ・マラケシュへの道、飛行機でのトラブルがもたらした「旅の神様」からの思わぬプレゼント、『一瞬の夏』より始まった新たな夢。シドニー、アテネと連なるオリンピックへの視線、『凍』を書くきっかけとなる対話。無数の旅と出会いの軌跡が銀河のごとく瞬き巡るエッセイ集。
最近旅に出ていない方が読めば、きっと旅をしたくなる。
そんな旅へと誘ってくれる一冊。
<目次>
ペルノーの一滴
買物ブギ
トランジット・ゾーン
カジノ・デイズ
マカオの花火
神様のプレゼント
セントラルパークで
七一一号室の彼女
エリザベートの鏡
桃源郷
心を残して、モロッコ
ニューヨーク・ニューヨーク
鏡としての旅人
ロサンゼルスのミッキー・ローク
心は折れるか
足跡——残す旅と辿る旅
少年ジョー、青年ジョー
その問いの前で
芸を磨く
レニの記憶
過ぎた季節
銀座の二人
拳の記憶
アテネの光
マルーシ通信
アテネの失冠
檀の響き
すべて眼に見えるように
白鬚橋から
「角度」について
失われた古書店
ささやかだけど甘やかな
司馬さんからの贈り物
キャラヴァンは進む
「夏」から「春」へ
母港として
彼の言葉
永遠のヴァガボンド 文庫版あとがきとして
沢木耕太郎
1947(昭和22)年、東京生れ。横浜国大卒業。
ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。『若き実力者たち』『敗れざる者たち』等を発表した後、1979年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、1982年には『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞。常にノンフィクションの新たな可能性を追求し続け、1995(平成7)年、檀一雄未亡人の一人称話法に徹した『檀』を発表。
2000年に初めての書き下ろし長編小説『血の味』を刊行。2002年から2004年にかけて、それまでのノンフィクション分野の仕事の集大成『沢木耕太郎ノンフィクション』が刊行され、2005年にはフィクション/ノンフィクションの垣根を超えたとも言うべき登山の極限状態を描いた『凍』を発表、大きな話題を呼んだ。