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それがやさしさじゃ困る

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それがやさしさじゃ困る / 著者・鳥羽和久 / 赤々舎




言葉になる前




息子と接していると突然、「まあまあ、落ち着いてください」などと諭すような、いつ誰に教えてもらったのかという言葉を突拍子もなく言い出すことがある。どちらが子どもなんだろうかと思ってしまうことも多々ある中、やっぱり子どもなのだなという場面ももちろんある。

保育園に何かの理由で行きたくない、もしくは行く気になれないといったことがあった。ただその理由を本人はなかなか言うことができない。だから、お腹が痛かったり、風邪っぽかったり、はたまた前日に誰かと喧嘩してしまったりと理由を親として考えはじめてしまう。けれど当の本人にとっては具体的な事象があって、行きたくないと思っているのではなく、何となくという理由が一番大きいのだった。

言語化された言葉として立ち現れる前に、私たちは気持ちが先に何かを訴えかけよううとする。これには年齢は関係ない。親であっても子であっても、老人であっても同じだ。言葉という便利なツールを多用するあまりに、気持ちを汲み取るということを忘れてしまいがちなところはこれからも意識的に観察していきたいと思う出来事だった。


さて、本書『それがやさしさじゃ困る』はそんな言語化できないことを上手く解説してくれている。内容は、子どもに向けられる「善意」や「配慮」が、時に子どもの心を傷つけ、主体性を奪ってしまうという逆説を、教育現場の最前線で20年以上子どもと向き合ってきた著者・鳥羽和久さんが鋭く描き出す一冊。


「失敗させまい」「傷つけまい」という大人の"先回り"が、実は子どもの可能性を閉ざしてしまう──。本書では「学校」「親と子」「勉強」「受験」といったテーマを軸に、現代教育の盲点と私たち大人が抱える不安の影を浮かび上がらせる。単なる批判にとどまらず、大人の葛藤や弱さへの眼差しがこめられているからこそ、その言葉は深く胸に響くだろう。


さらに本書を特別なものにしているのは、ページ下部に並走する一年間の日記の存在。そこには、卒業生との忘れられない一瞬や、親子の関わりの奥に潜む無自覚な"デリカシーのなさ"への気づきなど、教育の現場で生まれた生の思索が断片的に綴られている。論として伝えられるエッセイと、濾過されない日々の記録が呼応し合い、本書は単なる教育論を超えた、立体的で豊かな手触りを届けてくれている。


この本は、解決策を提示する本ではない。

むしろ「間違うこと」「揺れ動くこと」を恐れず、子どもを信じて共に歩むことの大切さを、本書は静かに指し示してくれている。大人として迷い続ける私たちに寄り添い、伴走してくれる一冊。

「いま、ここ」の感情に寄り添った、おすすめの一冊。



鳥羽 和久
1976 福岡県生まれ。2002年、大学院在学中に中学生40名を集めて学習塾を開き、以後、小中高生の学びに携わり続ける。現在、株式会社寺子屋ネット福岡代表取締役、唐人町寺子屋塾長、単位制高校「航空高校唐人町」校長、及びオルタナティブスクールTERA代表。著書に『親子の手帖増補版』(鳥影社)、『おやときどきこども』(ナナロク社)、『君は君の人生の主役になれ』(ちくまプリマー新書)、『「推し」の文化論│BTSから世界とつながる』(晶文社)、『光る夏旅をしても僕はそのまま』(晶文社)、編著に『「学び」がわからなくなったときに読む本』(あさま社)などがある。

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