タピオ・ヴィルカラ 世界の果て / 編者・羅苓寧、いまむられいこ、柴崎明日美 / ブルーシープ
自然と呼応するもの
大学四年の頃、人生で初めての飛行機に乗り、人生で初めての海外に、人生で初めて一人で旅に出た旅先は北欧・フィンランドだった。就職活動の際に一冊の北欧ヴァイキングのブランディングの本に出会い、そこで北欧という国やデザインに惹かれ始め、就職先が決まってからバイトでお金を貯めて臨んだ旅だった。ちょうどヘルシンキデザインウィークという街中の至る所で北欧デザインが集まる祭典を催しているタイミングだったこともあり、初めて目にする北欧のデザインに触れることができ、その後の人生への小さなしかし大きな一歩を踏み出したわけだった。
けれど、そうした現地のデザインのお祭りの喧騒を一歩離れてみると、デザイン以上に感じることがとても多かったように思う。いうならばそれは、自然が呼応する何かだった。
9月の北欧の天気といえば、偏西風に乗った雲がどんどん流れてきて15分くらいで天気がガラッと一変して、通り雨があったかと思うと、そこからいきなり快晴になったりする。街中の水たまりと青空のコントラストや屋根の雨樋から滴る雨水の輪郭がとても綺麗だったことが印象的だった。そのほかにも突然白い靄が遠くの方から自分の方へ向かって来たかと思えば一瞬にして極寒になったり、楓やメープルの一種の大きな葉が風で揺れ擦れ合う音など、自然のエレメントが当時東京で生活していた自然から受け取る感覚のレベルを超えて感じる何かがこの街にはあったのだ。
そんな北欧・フィンラインドの感覚的なファーストインプレッションを思い出させてくれたのが、本書『タピオ・ヴィルカラ 世界の果て』だった。
タピオ・ヴィルカラは、フィンランドのモダンデザイン界で圧倒的な存在感を放つデザイナー。1946年、イッタラ社のデザインコンペで優勝。1951年のミラノ・トリエンナーレでガラス作品「カンタレリ」と会場デザインでグランプリを受賞。1960年代からはフィンランド最北端のラップランドで多くの時間を過ごし、生命の神秘や大自然の躍動から得た着想は、代表作の一つ「ウルティマ・ツーレ」を生み出した巨匠だ。また、69年間の生涯で、ガラスや磁器、照明や家具などのプロダクトデザインやグラフィックデザインのほか、木彫、金工、ランドスケープアートと多岐にわたる作品を手がけた。
「自分の手を動かすものづくりは、私にとって大きな意味がある」
これはタピオ・ヴィルカラの言葉。
自然や都市環境をじっくり観察し、そのエレメントや不文律に従い素材がそうなろうというチカラを見つけ出すことに注力したヴィルカラ。そこで生まれたアイデアを、柔らかな手で線や絵に描き姿形に“掘り出す”とも表現する。常に自分の手を使い、ものづくりと真摯に向き合ったヴィルカラの考え方や感覚までもが伝わってくるようなビジュアルブックが本書。ヴィルカラ自身が撮影した芳醇なカラー写真と作品やドローイングの図版を渾然一体化し、「手触り」「姿」「ラップランド」「都市」「循環」などの断層を巡り、ヴィルカラの眼や手となって脳内をトリップできるこtだろう。ダニエル・ナイルス(総合地球環境学研究所)、吉泉聡(TAKT PROJECT)、勝見勝(工芸評論家)、江口宏志(蒸留家)、サミ・ヴィルカラ(デザイナー/タピオ・ヴィルカラ長男)の5氏の寄稿、マーリア・ヴィルカラ(現代美術家/タピオ・ヴィルカラ長女)の言葉を収録。
一冊を読み終えた頃には、自身の感受するチカラの萌芽がでてきているかもしれない。
タピオ・ヴィルカラ
1915年6月2日、フィンランド南部の港町ハンコに生まれ、幼少期をヘルシンキで過ごす。1936年、ヘルシンキ中央美術工芸学校(現アアルト大学)卒業後、広告デザイナーとして働く。1945年、アラビア製陶所美術部門のセラミックアーティストだったルート・ブリュック (1916-1999)と結婚。1946年、イッタラ社のデザインコンペ優勝を機に同社のデザイナーに起用され、約40年にわたり第一線で活躍。1951年のミラノ・トリエンナーレでガラス作品《カンタレリ》と会場デザインでグランプリを受賞。1966年、デザイン事務所「デザイン・タピオ・ヴィルカラ」設立。ヴェネチアン・ガラスの工房ヴェニーニやドイツの磁器製造会社ローゼンタール社とのコラボレーションワーク、フィンランド・マルッカ紙幣、フィンランド航空の機内用食器、「フィンランディア」ウォッカボトルなどのデザインも手がける。1985年5月19日、ヘルシンキで69歳の生涯を閉じた。カイ・フランク、ティモ・サルパネヴァに並ぶフィンランドデザインの三巨匠と称される。2003年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団が設立され、エスポー近代美術館に多くの作品が寄託されている。2025年はヴィルカラの生誕110年であり、没後40年にあたる。









