SWISS / 作者・長島有里枝 /
赤々舎
タイトルのとおり、写真家の長島さんがレジデンスのために幼きお子さんを連れてスイスへ渡ったときのことを掬い取った一冊。写真とおなじくらいのボリュームで、ご自身が綴ったテキストが織り交ぜられているばかりか、ボーディングパスをはじめとする、当時の旅の風情を想起させるしかけが随所にちりばめられています。これをひとつひとつ眺めたり読みながら進んでいくうちに、そこで撮られた写真の背景にある心の動きやシチュエーションがありありと想像できるように立ち現れてきます。ことばの端々から彼女の正直さが伝わってきて、読者の胸を打つのです。背伸びしたり、蓋をしてなかったことにせずに、鮮明に書き留める。そのまっすぐな勇敢さがとってもまぶしく映りました。まったく同じではないけれど、こうした葛藤や孤独、やるせなさを誰しも一度は感じたことがあるはず。だから共振したのでしょうか、しまいには涙が止まらなかった。そうか、わたしはきっと、こんなあたたかい涙を流したかったのだなぁ。そう思いながら最後のページを閉じ、余韻に浸ったのでした。
初版からおよそ15年の年月を経てようやく、言わずと知れた名作に出逢うことができました。それはきっと必要な余白で、この間に自分なりにさまざまな経験をし、それに伴ってあらわれた感情を噛み締めるという体験を重ねたことで、いよいよ本作を感受し得るうつわとなったのでしょう。紆余曲折を経てやっと、この本までたどり着けたのだと感じています。
錦 多希子
※ポッドキャスト『面影飛行』でもこちらのアートブックについてより深く語っています。あわせてお聞きください。
_________
「どれほど壮大な夢想をしていようとも、人が思考するときに目に映るのは、自分の寝室のように慣れ親しんだ、些細な風景である」(2010 年個展「SWISS+」に寄せたアーティスト・ステートメントより)
2007年にスイス エスタバイエ・ル・ラックにあったVillage Nomadeのレジデンシープログラムに参加した際に撮影した写真と日記によって構成。
これらの写真は、長島の亡くなった祖父の家から見つかった、25年ほど前に祖母が撮影し、箱に大切にしまっておいた花の写真にインスパイアされたもので、Village Nomadeの敷地内の草花や、部屋の光景、伴っていた息子などが写されている。 また、スイスの澄んだ空気の中で生まれた写真と言葉をそのまま束ねたスクラップブックのように、写真ページ、テキストページ、クラフトペーパーがランダムに綴じられ、 航空券のしおりやメモ書きも挟み込まれる。
手にとるひと、それぞれの思いとリンクするように、第3版の表紙は、22色もの布で覆われた。
「SWISS」は、デビュー以来常に「家族」というテーマのもとに写真を撮影してきたアーティスト長島有里枝の核心を静謐にひらく。
今は亡き祖母とお互いの花の写真を通して向き合い、遠いひとに思いを馳せ、近いはずのひとと心を見つめ合った時間が凝縮された美しい一冊。
"部屋に戻り
ここにくるまですごくじかんがかかったよね
と息子が言う
この旅の道程のことをはなしているのに
わたしたちの心のことを言っているようにも聞こえる"
(出版社より)
_________






