空間〈機能から様相へ〉 / 著者・原広司 / 岩波書店
感覚経験の価値
信州・上田の隣町に青木村という市町村がある。上田からは県道をただひたすらにまっすぐ走っていくと着く小さな村なのだが、東急グループの創業者でもある五島慶太の出身地だったりと市町村としても独自路線を感じる雰囲気があり、個人的にはとても好きな場所だ。
もう一つここのお気に入りの場所として、『青木村ふるさと公園』というひらけた公園がある。綺麗な芝生が広がり、上田市内を青空を背景に一望できるのがとても清々しい。子どもが生まれてからは特にストライダーを持って公園の周りを周遊するのがお決まりのコースになっている。
先日の『播種 自由に自然と生きる ブックフェア』の際に、上田出身のランドスケープデザイナーの小林賢二さんがお店を訪ねてくださった。色々と店内を説明しながらゆっくり見ていただいたのだけれど、その中でも彼がフックしていたのが本書『空間〈機能から様相へ〉』だった。「また、渋い本を選書するね。」と言いながらページをペラペラと。どうやら建築家を志していた頃によく手に取って読んでいたようだった。
そんな小林さんが『青木村ふるさと公園』のエントランスに彫刻を作っていたということを後から知った。改めて現地に遊びに行った時に確認してみると、今までどうしてここに気が付かなかったのかと思うような目立つ場所に彫刻のオブジェは鎮座していた。説明書きには、青木村でよく見かける三角形をモチーフに制作
されたということが書かれていた。三角形?はてそんなものどこにあったのだろうかと目線を上げてみると、それは俺のことだ!と言わんばかりに眼前に広がる山々が三角形のそれだった。
オブジェは物としての機能的な価値がどこにあるかと問われれば、口篭ってしまうところがある。しかし、人間が感じる感覚経験としての価値としては、これほどインパクトのあるものはないはずだ。
小林さんはお店から出る時に、「俺はこの本に出会ってから、機能的なことではなく、様相を考える庭師やランドスケープにシフトしたんだよね」と考え深げに呟いたのだった。
さて、本書『空間〈機能から様相へ〉』は、京都駅の設計をはじめ世界的に著名な建築家である著者・原広司が思想を存分に語った一冊。本書で繰り出される「非ずあらず」の論理展開は、形のない東洋哲学を西洋科学文明に混ぜ合わせる驚異の試みと言える。
全てが合理的、効率的に思考しがちな現在。
改めて合理性や効率性のベースにある機能主義に待ったをかける一冊。
あなたの視点を広げることは間違いない。
<目次>
序
均質空間論
〈部分と全体の論理〉についてのブリコラージュ
境界論
機能から様相へ
〈非ず非ず〉と日本の空間的伝統
原広司
1936年神奈川県に生まれる.建築家.東京大学名誉教授.1970年代に世界の集落調査に従事.また80年代以降の創作活動の中軸にある「多層構造モデル」は国の内外で大きな反響を呼んだ.主な著書に『建築に何が可能か』(学芸書林),『集落への旅』(岩波新書),『集落の教え 100』(彰国社),編著に『住居集合論I・II』(鹿島出版会)がある.