土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技 / 著者・高田宏臣 / 建築資料研究社
土の中の出来事
自然農の畑を始めるまで土というものに全く触れてこなかった。東京のオフィス街で街路樹の足元のような人工的に施した土以外に、本来の土というものに触れるということはなかなか難しいように思う。それゆえ、土がどのように変化してくのかということはもちろん知る由もない。
その土と同時に、作物を栽培する際に、世にいう雑草の役割というものがとても重要だということも実践をベースに学ぶことができた。夏場、雑草を敵とみなし、これみよがしに草の地際から刈ってしまっては余計にその草を刺激してしまって、より繁茂してしまうなんてことも然りだ。とはいえ草はある程度は刈り、溜まった草を一つの箇所に貯めておき、いわゆる草堆肥を作るような形でしばらく置いておく、僕の場合は草堆肥を完全に作るのではなく、そこで草をある程度発酵させて、白い菌が目に見えてわかるくらいのタイミングで草マルチとして畝に被せてあげると、これが効く。あんなに粘度質で乾燥するとガチガチに固まってしまっていた土壌がフカフカになっていくのだ。それをやると、土の中でどんなことが起こっているかは未だによくわからない。けれど、明らかにそこに起こる現象として何か変化が生まれてくるからある種の希望のようにも感じてしまうのだ。
さて、この土の中の出来事をわかりやすくまとめてくれているのが本書『土壌環境』だ。造園業を営む高田宏臣さんが自身の経験や知識をわかりやすく、そして惜しみなく伝えてくれている一冊。全く手をかけなく、自然のままに自然を放置しても、ただ荒れてしまう野山になるのは目に見えること。だとしたら人間がどの程度自然に対して手を差し伸べていけばいいものだろうか。そうした疑問が本書を読んでいると解きほぐされてくるような感覚になるはずだ。
古来より存在する土木技術は、いかにして環境を守ってきたのか、そしてその技術は現代を生きる我々にどのように語りかけてくるのか。造園から環境を考える一冊。
<目次>
第1章 土中環境とは(土中環境への目覚め;森林の状態と土中環境の相関性 ほか)
第2章 大地の通気浸透水脈(地形と大地の通気浸透水脈について;健康な河川の仕組みとその崩壊とは―貯水ダムとシルトの流亡プロセス ほか)
第3章 暮らしを支える海・川・森の循環(信仰に守られてきた大地の水循環―弘法大師の足跡から;「川のいのち」というもの―アイヌの暮らしと北海道の河川 ほか)
第4章 安全で豊かな環境を持続させてきた先人の智慧と技(過去の土木造作の技と智慧を見直す意味;土砂崩壊を土中環境から考える ほか)
第5章 土中環境改善の実例5例(太夫浜 海辺の森、海岸松林の環境改善(新潟・北区)
吉野山 太閤花見塚の環境再生(奈良・吉野町) ほか)
高田宏臣
株式会社高田造園設計事務所代表、NPO法人地球守代表理事。1969年千葉生まれ。東京農工大学農学部林学科卒業。1997年独立。2003~2005年日本庭園研究会幹事。2007年株式会社高田造園設計事務所設立。2014~2019年NPO法人ダーチャサポート理事。2016年~NPO法人地球守代表理事。国内外で造園・土木設計施工、環境再生に従事。土中環境の健全化、水と空気の健全な循環の視点から、住宅地、里山、奥山、保安林などの環境改善と再生の手法を提案、指導。大地の通気浸透性に配慮した伝統的な暮らしの知恵や土木造作の意義を広めている。行政やさまざまな民間団体の依頼で環境調査や再生計画の提案、実証、講座開催および技術指導にあたる

