スノードーム / 著者・香山哲 / 生きのびるブックス
奥底に眠るもの
幼かった時にオーディオ機器の近くにスノードームが置かれていた。そのスノードムには雪だるまや確かサンタクロースが入っていたので、きっと僕や姉のために父や母、もしくは子どもがいるということで、父や母の同僚が気を利かせてプレゼントしてくれたものかもしれない。
中身がそういうこともあり、クリスマス時期になるとひっくり返して中の白いものを動かし吹雪のようにしてみたりしたけれど、おもちゃともオブジェとも言えない、言って仕舞えば中途半端なそれの扱いに子どもながらに戸惑いを覚えていた。
このスノードームと同様に、SFの物語には少々戸惑いがあった。実際に起こったことでもないし、さらにその内容は現在の科学では到底あり得ないであろう内容が事細かに描写されている不思議さがそうさせていたのかもしれない。しかもその内容が実社会の何かの役にすぐに立つのかというとそういった類のものではないことは明らかなはずだ。
けれど、それが過去形になりつつある。この一冊『スノードーム』を手にした時からだ。「考え続けよう。世界を知るために」と題された小説。この小説に登場するのは、スノードームの中のオブジェたち。オブジェたちの間に流れた「滅亡の噂」について、話し合い、考え続ける、小さな世界のお話では「考えるとは何か」「その先に何があるのか」が描かれている。
オブジェたちの頭上にヒビが入ったところから始まるこの物語、そのヒビが滅亡のサインなのではないかと騒ぎ立てている様子は、あたかも私たちが今この地球の環境破壊が進んでしまっている様子と多少なりともシンクロしてくるような感覚を覚え、そして示唆深く感じるのは僕だけだろうか。
考えることに興味がある、すべての人に読んで欲しい一冊。
香山哲
漫画やコンピューターゲームやエッセイなどを制作。『香山哲のファウスト1』が2013年に第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品に入選。『心のクウェート』が2017年にアングレーム国際漫画祭オルタナティブ部門にノミネート。不可思議移住エッセイマンガ『ベルリンうわの空』が2021年に『このマンガがすごい! 2021』(宝島社)オトコ編10位にランクイン、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員会推薦作品に入選するなど、大きな話題に。著書に漫画の新連載計画を練る過程を描いた『香山哲のプロジェクト発酵記』『レタイトナイト』など。



