小さい午餐 / 著者・小山田浩子 / twililight
昼飯の幸せ
会社員時代だった時の楽しみといえば、昼飯だった。
OLのようにランチではなく、昼飯。社食のシンプルなざるそばに天ぷらを添えたり、外回りの営業の出先で食べた寿司。課長と一緒に行って奢ってもらったつけ麺。営業の出先ではなく、職場のチームのママさんたちと社用車を使って鰻を食べに行ってその後部長に怒られたりと、今となってはとても懐かしい口の中の思い出となっている。こういったように会社員時代の仕事の内容は年々記憶がぼんやりとしてきてしまったのだが、お昼休みに食べた食べ物の記憶はとても根強く、挙げればキリがないほどで、とても楽しいものだった。
さてそんなことを思い出したきっかけが、広島在住の芥川賞作家・小山田浩子の初めての食エッセイ集『小さい午餐』だ。
自宅で小説を書いている小山田さんが外でお昼を食べるという小さい冒険、非日常について書いたエッセイで、氏は“誰だってお昼を食べるし、その場所は自由に決めていい”と本書内で語っていて、何だか背中を押してもらったような気にさえなる。
見たこと感じたことを書いていくうちにどんどん虚実が混ざって、 エッセイでありながら私小説でもあり、でも、確かに体感したことがまとまっているので、とても現実よりもとてもリアルに感じることができるはず。
“誰もがハッピーなアワーを過ごす権利がある、 それを忘れないようにする。 ちょっと酔っている、でもまだ普通に歩ける。”
“暗くなったり考えこんだり泣けたり、調子に乗って失敗したりもする 日々ですが、お昼ご飯がある程度おいしく楽しく食べられたらありがたい、 大丈夫だ、と感じます。どこで生まれても、暮らしていても、誰もが食べたい ようにお昼ご飯を食べられる世界であるよう、強く願っています。”
昼飯に何か特別なものを食べたくなってしまう一冊です。
<目次>
まえがき
居酒屋の日替わり定食
ラーメン店のラーメン
喫茶店の天丼
カフェの野菜チキンサンド
喫茶店の豚しゃぶサンド
2度目のラーメン
とんかつ店のロース定食
別府冷麺
町中華の中華丼
東京駅であんみつ
タピオカ屋のタピオカ
ブライアントパークでピタサンド
回転寿司の寿司
ラーメン店のラーメンライス
イギリスでサンドイッチと機内食
ディストピア、ブリトーとビーフンとピザ
お肉の弁当
ラーメン屋の肉野菜炒め麺
スタッフによるビュッフェ
中華の黄ニラ
山の公園の麺類
呉のクリームパイ
喧嘩つけ麺
広島のお好み焼き
思い出の汁なし坦々麺
ファミレスのハッピーアワー
小山田浩子
1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『庭』
『小島』、エッセイ集『パイプの中のかえる』『かえるはかえる』がある。