魯山人の料理王国 / 著者・北大路魯山人 / 文化出版局
うまいものを食って、寝たいだけ寝る
「うまいものを食って、寝たいだけ寝る」
本書『魯山人の料理王国』のあとがきに記してある文章だ。この本は、絵を描き、書をよくし、美食が高じて陶器を作り、星岡茶寮をひらいた魯山人ならではの言い回しや能書きがエッセイとして多くまとまっている。読み始めは言葉は悪くなってしまうが、なにを頑固親父が能書きを垂れて、と言いたくなるけれど、読み進めていると、なるほどそういう視点もあるのかと膝を打つ思いになるのが面白い。確かに美食を追い求めているので、少し偏りがあるように思ってしまうが、知らず知らずのうちにその魯山人が見ている料理の世界という輪郭が分かってくるようになり、読み終える頃には、そうくると思っていましたよ、魯山人さんとその視点を理解できることだろう。
料理という題材、そして美食を追い求める姿勢は、土曜の夕方に息子と風呂上がりに観ることにしている『美味しんぼ』に少し似ているなと、そしてその中で出てくる主人公の山岡のライバル?であり実の親でもある美食家『海原雄山』と魯山人を重ねて見てしまうのは、自分だけだろうか。
1980年に初版されたものが、新装復刻したこともあり、中の文章の字体や印刷などのスレが当時を思い起こさせてくれる。トレーシングで覆われた魯山人唯一の料理エッセイ集。
新装復刻にあたって 秦 秀雄
序にかえて
料理する心
道は次第に狭し/料理の第一歩/個性/海の青と空の青/材料か料理か/
料理の秘訣/筆にも口にもつくす/不老長寿の秘訣/料理する心とは/
料理芝居/料理人を募る/狂言 食道楽
味覚論語
食器は料理のキモノ/残肴の処理/美味論語/鮟鱇一夕話/家庭料理の話
食通閑談
鮎の試食時代/鮎の名所/若鮎について/鮎ははらわた/鮎の食い方/
弦斎の鮎/インチキ鮎/鰻の話/河豚のこと/猪の味/山椒魚/
蝦蟇を食べた話/握り寿司の名人/うまい豆腐の話/椎茸の話/お米の話
お茶漬の味
お茶漬けの味/納豆の茶漬/海苔の茶漬/塩昆布の茶漬/塩鮭、塩鱒の茶漬/
鮪の茶漬/天ぷらの茶漬/鱧、穴子、鰻の茶漬/車蝦の茶漬/京都の鮴の茶漬
香辛料と調味料
山椒/日本芥子/だしの取り方/薄口醤油/化学調味料
味ところどころ
筍は季節の味/いなせな初鰹/洗い作りのうまさ/一癖あるどじょう/
小魚の干物の味/知らずや肝の美味
料理メモ
雑煮/鮑の水貝/胡瓜/昆布とろの吸物/琥珀揚/高野豆腐/白菜のスープ煮/
茶碗蒸/三州仕立小蕪汁/甘鯛の姿焼/沢庵/鍋料理の話
世界食べある記
欧米料理と日本/ハワイの食用蛙/アメリカの牛豚/デンマークのビール/
フランス料理について/すき焼と鴨料理
あとがき―小生のあけくれ―
初出一覧
魯山人略歴
北大路 魯山人
1883年〈明治16年〉3月23日 - 1959年〈昭和34年〉12月21日)は、日本の芸術家。出生前に父親を亡くし、母親からも捨てられるが、複数の養親と素封家の家を転々としながら独学で美に関する見識を高め、生涯を通じて、篆刻、絵画、陶芸、書道、漆工、料理などのさまざまな分野で活動した。私生活では過酷な幼児体験から他者を信頼することができず、誰に対しても率直な発言をおこなったために、周囲と多くの摩擦を引き起こして孤独な晩年を送った。美食家。



