レディオワン / 著者・斉藤倫 / 光村図書出版
ラジオからの声
幼い頃からラジオというものが自分の身近にあった。学校でも話題といったらテレビの話な訳で、その会話の中にラジオの話が出てくることは皆無だった。だからラジオは“僕だけが”知っているメディアのように思えたのだ。というのも、中学受験をしたので、勉強中に映像が流れるテレビを見るわけにもいかず、ながらで聞けるラジオが重宝した。特にお気に入りだったのが、横浜に住んでいたということでもないけれど、FM Yokohamaで平日夜にやっていた帯番組だった。特段有名なアイドルや俳優がパーソナリティになっている訳でもなく、名の知れぬ方々が語りながら音楽を流すといういわゆる定番のラジオ番組の構成だったのだが、どんな話をしていたのか、どんな音楽を流していたのか、全くと言っていいほど覚えていない。受験勉強中の身にしてみれば、聞き流すのにはちょうどよかったのかもしれない。そんなラジオからの声が、切羽詰まった受験勉強中の気持ちを自然と解きほぐしてくれたのだった。
さて、本書『レディオワン』はまさにそんな凝り固まったあなたのこころを解きほぐしてくれる一冊になるだろう。舞台は毎週月曜9時のラジオブース。ラジオ番組の本かと思いきや、他と異なるのがDJが犬だということ。著者の斉藤倫さんはポエトリー・ドッグスに代表されるように、犬が人間のように話をさせることで本質的なメッセージを伝えるのが上手な作家。本作もご多分に漏れず、そうした設定の元で些細な日常の出来事の話を語る。だけれどそんなエピソードの中に温かな何かを感じ取ることができるはずだ。
翻訳家の金原瑞人は本書の帯にこう書いている。
「とても大切なもの、とても素敵なもの、ほかにはないもののことを、英語で、オンリーワン、といいます。」
そんなオンリーワンの物語をぜひ味わってみてほしい。
<目次>
第一回 リードとリボン
第二回 スイカとライカ
第三回 ケーキとケージ
第四回 リボンとレディオ
放送のあとで
特別番組 ねらわれたジョン(一)
特別番組 ねらわれたジョン(二)
斉藤倫
1969年生まれ。詩人。2004年、『手をふる 手をふる』(あざみ書房)でデビュー。14年、はじめての長篇物語『どろぼうのどろぼん』を発表。同作で第48回日本児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品として『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』、『さいごのゆうれい』(以上、福音館書店)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)。絵本に『えのないえほん』(絵 植田真/講談社)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵 くのまり/ブロンズ新社)。詩集に『さよなら、柩』(思潮社)など。また『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)に編集委員として関わる。