私的甘もの放談 / 著者・内田真美 / アノニマ・スタジオ
わたしとおかし
幼少の頃は特に体が弱く、風邪などを引いてお腹を壊して食事をまともに食べられないということがよくありました。ちょっと食が太くなったねと両親が話をしている矢先に私の方は胃がムカムカし始めるなんてことがしょっちゅうで、そんなことも今では家族の語り草となっているほどです。
こういった時に母は何か少しでもお腹が満たされるものとしてカステラを与えてくれたのを覚えています。子どもが病気の時は親というものは優しくなるもので、どこかのスーパーのカステラではなく、ザ・カステラとも言える文明堂のそれを用意してくれました。今では自分が親になり、その気持ちは痛く分かってきている今日この頃です。
さて、そんなカステラですが、裏面についている半紙をペロリと取ると、焦げた生地に挟まる白いザラメがお目見えします。ボディーの見事な卵色といったような黄色と茶色の両端、そしてザラメ。全てのコントラストが相まって、飲まず食わずだった口の中にそれが放り込まれると、なんとも言えない口福が口の中に広がっていくのを感じます。この時ばかりは自分が病んでいるということをすっかり忘れてしまうのがなんだか不思議な感覚でしたが、きっと甘いものには『今ここ』にフォーカスする何かがきっとあるはずなんだと幼心に思ったのでした。
さて、本書『私的甘いもの放談』は料理家・内田真美さんが甘もの好きな各界で活躍される8名と、おすすめの菓子を挟みながら、国内や海外の菓子や喫茶、お茶の時間や効用について語り合う、味わい深い対談集です。どなたとの対談もそれぞれの甘い記憶とその時の感情が湧き上がってくのが感じ取れるかと思います。
そして不思議なのは、いい大人たちが話をしているのに、甘いものの話になると子どものような眼差しを文章やそのトーンを通じて伝わってくるのです。なんともピュアだなというそんな印象です。
本書を手にする際は、ぜひご自身のとっておきのお菓子と飲み物をご用意の上、本書をお召し上がりください。
■対談者一覧
山本祐布子(mitosaya薬草園蒸留所・イラストレーター)
重信初江(料理研究家)
井出恭子(「YAECA」デザイナー)
朝吹真理子(作家)
福田里香(菓子研究家)
なかしましほ(料理家・「foodmood」店主)
平野紗季子(フードエッセイスト)
後藤裕一(パティシエ・「Equal」「PATH」オーナー)
内田真美
料理研究家。長崎県生まれ。書籍や雑誌、広告など、幅広いシーンでレシピを提案する。著書に『洋風料理 私のルール』、『私の家庭菓子』、『私的台湾食記帖』、『私的台北好味帖』(すべてアノニマ・スタジオ)、『高加水生地の粉ものレッスン』(KADOKAWA )などがある。