センスの哲学 / 著者・千葉雅也 /文藝春秋
モノを観る、判断する
20代後半は本当に旅をしながら色々なモノを見てきました。
それは食べるもの一つとっても。
夜道の屋台から星付きレストランまで、その当時のボスと一緒に色々な国々を旅をしながらそれを経験として体験していました。これが星付きレストランだけを食べ歩くというものではなかったのがミソだったのだと思います。本質的な旨いということはなんなのかという共通項を体験として見出し、それを感覚として自分自身の血肉としていけた経験はお金を出しても買えるものではないはずです。
その時のことをより抽象化していくと、まず観ること。それは物体として見るのではなく、その背景にある文脈を感じ取って観るということなのだろうと思います。そしてその感じ取った情報たちの中から判断していくということなのですが、この判断というのが場数が必要で、それはまさに色々なものを観る経験からしか養えないんじゃないかと思う訳です。
ボスは時折、センスのある無しについて語ることがありましたが、結局それを養うのは『観るそして判断する』ということの経験の数で変わってくるのだろうと感じていたのでした。
服選びや食事の店選び、インテリアのレイアウトや仕事の筋まで、さまざまなジャンルについて言われる「センスがいい」「悪い」という言葉。あるいは、「あの人はアートがわかる」「音楽がわかる」という芸術的センスを捉えた発言。
何か自分の体質について言われているようで、どうにもできない部分に関わっているようで、気になって仕方がない。このいわく言い難い、因数分解の難しい「センス」とは何か? 果たしてセンスの良さは変えられるのか?
そんなことが論じられているのが本書『センスの哲学』です。
哲学とタイトルにありますが、難しい表現は一切なく、言葉の意味合いというのを著者と一緒に紐解いていく内容となっています。
音楽、絵画、小説、映画……芸術的諸ジャンルを横断しながら考える「センスの哲学」にして、芸術入門の書。
フォーマリスト的に形を捉え、そのリズムを楽しむために。
哲学・思想と小説・美術の両輪で活躍する著者による哲学三部作(『勉強の哲学』『現代思想入門』)の最終作です。
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さて、実は、この本は「センスが良くなる本」です。
と言うと、そんなバカな、「お前にセンスがわかるのか」と非難が飛んでくるんじゃないかと思うんですが……ひとまず、そう言ってみましょう。
「センスが良くなる」というのは、まあ、ハッタリだと思ってください。この本によって、皆さんが期待されている意味で「センスが良くなる」かどうかは、わかりません。ただ、ものを見るときの「ある感覚」が伝わってほしいと希望しています(「はじめに」より)。
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<目次>
第1章 センスとは何か
第2章 リズムとして捉える
第3章 いないいないばあの原理
第4章 意味のリズム
第5章 並べること
第6章 センスと偶然性
第7章 時間と人間
第8章 反復とアンチセンス
付録 芸術と生活をつなぐワーク
読書ガイド
千葉雅也
1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(第4回紀伊國屋じんぶん大賞、第5回表象文化論学会賞)、『勉強の哲学――来たるべきバカのために』、『アメリカ紀行』、『デッドライン』(第41回野間文芸新人賞)、「マジックミラー」(第45回川端康成文学賞、『オーバーヒート』所収)、『現代思想入門』(新書大賞2023)など著書多数。