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分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考

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分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考 / 著者・藤原辰史 / 青土社




生と死のあわい




2015年頃から何かを創っている方たちに話を聞くということを生業にしているので、かれこれもう十年ほどにもなる。100名を優に越すクリエイターたちの持つものづくりの背景にある思想は同じものはほとんどなく、毎回驚きと再発見の連続だ。


中でも印象に残っているのが a quiet day ISSUE 2018号で安曇野・松川村のアトリエでセミオーダーのレザーシューズを製作しているForest Shoemakerさんへのインタビュー。大方のインタビューを終えて、では終わろうかとしている時にふと思い立って聞いた「ものの終わりをどう考えているか?」という問いが、今になって聞いた自分自身に波のように揺り返しが来ているように感じている。

そもそもこの問いについては明確な答えはないのだけれど、Forest Shoemakerさんはその問いを考えながら作っていきたいと語ってくれ、先日お会いした時もまだまだ考え続けていると話してくれた。


畑作業をしていると、野菜の残渣やそこらに生えている草たちを畝の上などに置いておくと、時の流れによって土へと還っていく。私たちが普段口にしているものも体の中ですべて形を変えて何かのエネルギーへと昇華されていく。そう考えると地球上で生きているということはこのエネルギーの受け渡しを自分とそれ以外の命あるものの中で行き来しているだけに過ぎないのではないのかと思ってしまう。

そうであるならば世の中もっと気楽に生きていきたいものだ。


さて、そんなぼやきのような元も子もない考えが思い浮かんだきっかけは本書『分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考』だった。おもちゃに変身するゴミ、土に還るロボット、葬送されるクジラ、目に見えない微生物・・・・・・わたしたちが生きる世界は新品と廃棄物、生産と商品、生と死のあわいにある豊かさに満ち溢れている。

歴史学、文学、生態学から在野の実践知まで横断する、〈食〉を思考するための新しい哲学。




<目次>

序章 生じつつ壊れる

1 掃除のおじさん

2 属性を失ったものの必要性

3 人間界と自然界のはざまで

4 壊れたものの理念――ナポリの技術

5 機能から切り離された器官


第1章 〈帝国〉の形態――ネグリとハートの「腐敗」概念について

1 隠される腐敗

2 土壌から考える

3 〈帝国〉を描く

4 腐敗を考える

5 分解者としてのマルチチュード

6 歴史に聴く


第2章 積み木の哲学――フレーベルの幼稚園について

1 崩すおもちゃ

2 フレーベルの幼稚園

3 フレーベルの積み木の哲学

4 積み木の無限性

5 育むものとしての人間と植物

6 歌と音

7 食べる分解者たち


第3章 人類の臨界――チャペックの未来小説について

1 「分解世界」と「抗分解世界」

2 『マクロプロス事件』

3 もはや神の未熟児ではなく

4 メチニコフのヨーグルト

5 人類はいつまでもつのか

6 人類の臨界へ―─ロボットの叛乱

7 ロボットと人類の混交

8 労働からの解放による人類の滅亡――『山椒魚戦争』

9 壊しすぎるという問題─―『絶対製造工場』と『クラカチット』

10 ロボットの末裔たち

11 土いじりの生態学

12 チャペックの臨界から跳べ


第4章 屑拾いのマリア――法とくらしのはざまで

1 分解者としての屑拾い

2 明治の「くずひろい」

3 屑の世界の治安と衛生

4 バタヤとルンペン・プロレタリアート

5 ポーランドから蟻の街へ

6 満洲から蟻の街へ

7 「蟻の街」という舞台で

8 恥ずかしさと愉快さ

9 屑を喰う


第5章 葬送の賑わい――生態学史のなかの「分解者」

1 生態系という概念

2 生産者と消費者と分解者

3 「分解者」とは何か

4 「分解者」概念の誕生

5 葬儀屋とリサイクル業者

6 シマウマとサケとクジラの「葬儀」

7 人間の「葬儀」

8 糞のなかの宝石

9 ファーブルの糞虫

10 分解世界としての蛹


第6章 修理の美学――つくろう、ほどく、ほどこす

1 計画的陳腐化

2 減築

3 犁のメンテナンス

4 メンテナンスと愛着

5 金繕い

6 器の「景色」

7 「ほどく」と「むすぶ」

8 「とく」と「とき」


終章 分解の饗宴

1 装置を発酵させる

2 食現象の拡張的考察

3 食い殺すことの祝祭


あとがきにかえて




藤原辰史

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。

著書に『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房、2005年→新装版:2012年)、

『カブラの冬』(人文書院、2011)、『ナチスのキッチン』(水声社、2012決定版:共和国、2016)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館、2012)、『食べること考えること (共和国、2014)、『トラクターの世界史』(中公新書、2017)、『戦争と農業』(集英社インターナショナル新書、2017)、『給食の歴史』(岩波新書、2018)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会、2019)がある。

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