パウル・クレー 地中海の旅 / 著者・新藤信 /平凡社
インナートリップへの誘い
旅をしているといつもの日常生活の外側に物理的には行っているのに、その行き先は自分の内側、つまりインナーへトリップしていることが多々あります。目の前に広がる異国の地の景色や空気を感じることで己の中の何かが反応して、今まで思ってもみなかったことや想像を遥かに超えるアイデアなどが浮かんでくるものです。
でもそれはあまり不思議なことではありません。よくよく考えてみれば異国の地にいる時の方が、普段の生活の時よりも自分が持っている五感をフルに活用して感じ取ろうとしているからなのです。つまり逆に考えてみれば普段の生活でも五感を意識して営んでいれば自ずとそういった非日常の状態というものが作り出せるのだと思っています。
さて、本書『パウル・クレー 地中海の旅』は、画家のパウル・クレー(1879-1940)が生涯に旅したスイス、ドイツ、イタリア、南仏、チュニジア、エジプトの各地をたどりつつ、作風への影響や名作に表わされた豊かな余韻を考察する画文集です。
本書の冒頭にクレーの旅の意味は日常と非日常の間(あわい)、現実と非現実の中間にある<目に見えないもの>の中に創造の種子を見出すことであったと綴られています。
まさしくこれは、インナートリップだったのでしょう。
パウル・クレーの旅をなぞりながら、ご自身のインナートリップもしてみてくださいね。
<目次>
第一章 旅の起点 ヨーロッパ美術と出会う
スイス・ドイツ
イタリア
第二章 旅の途上 地中海文化と出会う
シチリア
パリ・南フランス
第三章 旅の終点 オリエント文明と出会う
チュニジア
エジプト
クレーの旅をめぐる随筆……内田洋子/谷口江恵也/谷川晃一
パウル・クレー 生涯と旅の年譜
作品リスト
クレー作品収録美術館