水辺にて on the water / off the water / 著者・梨木香歩 / ちくま文庫
境界面を漂う
美しい風景に時たま出会うことがあります。それはただ単にきれいな場所や眺めのいい場所の風景というわけではなく、突然、『ああ、なんだか美しい』とこころの中から震えて湧き上がってくるような、どこか懐かしい感覚の共鳴なのかもしれません。
本書『水辺にて』はそうした感覚をカヤックでさまざまな場所を旅し、そこで漂い感じたことを小説家の梨木香歩さんがエッセイで紡いだ一冊になっています。ボイジャーと名付けられたカヤックで水面を漂い世の中を垣間見ている視点は、まるで境界面を客観的にみているように思わされるはずです。そして波紋のように広がっていく梨木さんの紡ぐ言葉を端緒に、どこか懐かしく美しい風景があなたのこころの中にぼんやりと浮かび上がっていくことでしょう。
自分の中に流れる大切な時間や風景を思い起こさせてくれる一冊です。
梨木香歩
1959年生れ。著書に『西の魔女が死んだ』『裏庭』『丹生都比売(におつひめ)』『エンジェル エンジェル エンジェル』『りかさん』『からくりからくさ』『家守奇譚』『村田エフェンディ滞土録』『沼地のある森を抜けて』『f植物園の巣穴』『春になったら莓を摘みに』『ぐるりのこと』『水辺にて』等がある。