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つぎの民話: 〈映像以前の光〉への旅

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つぎの民話: 〈映像以前の光〉への旅 / 著者・松井至 / 信陽堂



まなざしを重ねる



映画や本などをいわゆる鑑賞する、読書するというのは不思議な行為な気がする。同じストーリーを纏った物語を限られた時間で観る、または読むという行為自体は側からみたら同じなのだけれど、その鑑賞者や読者が一体どのようにその物語を読み取り感じているかということについては、作者は到底意図できないし、するべきことでも無いように感じる。そしてそれは実に多種多様なのだ。

その中で昔から地域に残る民話というものが、特に田舎には残っている。多少のずれがあるかもしれないが、民話に限ってはその地域の大切なことをお話の内容を通して伝えていくという側面があることや、伝え方として口伝で伝承されることが多い。だから、個々人の視覚というある種の偏ったフィルターを通さずそのままの意図が後世に紡がれていくという形式美のような性質を帯びている。それはまさに他者とのまなざしを重ねていくような体験なのかもしれない。個人的には信州・上田に移住をした際にこの民話という切り口からいくつかお話しを聞いてみたことがあったけれど、舌喰池の話は夢に出てきそうなほど怖かった思いをした。


さて、本書『つぎの民話: 〈映像以前の光〉への旅』はそういった意味でチャレンジングな作品になっている。傑作ドキュメンタリー映画『私だけ聴こえる』で知られざる〈コーダ= CODA〉の世界を描き、驚きと共に世界に迎えられた松井至監督による、初めての著書。口伝で伝承されてきた民話という切り口を自身のストロングでもある映像で表現していく背景をドキュメンタリー形式で文章でまとめているからだ。

映像を〈見る〉〈見られる〉という関係から解き放ち、その場にあらわれるものを〈共視〉することでひらかれるドキュメンタリーの新しい可能性。

……石巻、いわき、奈良、京都、朝日町、西会津、前橋……

日本各地を旅し、人に出会い、撮影を続ける日々の中で、〈映像とは何か〉〈映像に何ができるのか〉を探究し続けた、二年間の旅を綴る、体験的映像論。


本書の表紙にあるシールを剥がすと本書で制作過程が描かれた、松井監督の映画7作品の鑑賞リンクがついている。きっとこの一冊を読んだ後に映像を見れば、まなざしを重ねるという意味が理解できることだろう。



<目次>

握手      |プロローグ

家は生きていく |石巻

近くて遠い海へ |いわき

ゆびわのはなし |御所

いのちの被膜  |京都

〈つぎの民話〉へ|ウガンダ――朝日町

田んぼに還る  |西会津

光を読む    |映画『私だけ聴こえる』

うたうかなた  |前橋

想起するまなざし|エピローグ



松井至
1984年生まれ。映像作家。人と世界と映像の関係を模索している。2021年、耳の聴こえない親を持つ、聴こえる子どもたちが音のない世界と聴こえる世界のあいだで居場所を探す映画『私だけ聴こえる』を発表、海外の映画祭や全国四十館のミニシアターで上映され反響を呼んだ。令和四年度文化庁映画賞文化記録映画大賞受賞。無名の人たちが知られざる物語を語る映像祭〈ドキュメメント〉を主催。現在は「地域で撮り、地域で観る」映像制作ユニット〈つぎの民話〉を展開している。

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