自然の風景論―自然をめぐるまなざしと表象 / 著者・西田正憲 / 清水弘文堂書房
自然と風景の記憶
「国破れて山河在り」という言葉がある。国が戦乱で滅びても、自然の山や川は昔のまま変わらず存在し続ける、という意味で、中国・唐の詩人・杜甫の漢詩『春望』の冒頭の句からきているのだが、これは諸行無常や儚さというような日本人の精神性を感じさせる言葉の一つなのだろう。
信州に越してきてからというもの度々東京などの都会に足を運んでみると、巨大な高層ビル群に囲まれているので物理的にも精神的にも疲れてくるなと思うところがあった。だけれど、それは高層ビルのせいではなく、それがあることにより自然の風景、つまり我が国の象徴ともいうべき山を中心とした景観が損なわれているから物足りなさや閉塞感を感じているのだと移住から5年ほど経った今感じるのだ。生まれ故郷が山々に囲まれていたからとかそういう郷愁的なことでもなく、それが外国であっても山がそこにあると安心してくるのだ。
ではなぜこうした山の景観がある種の心地よさを感じるのだろうか。そんな疑問に対して一つの道標になるのが、こちらの『自然の風景論―自然をめぐるまなざしと表象』なのだろう。
自然風景地を知りつくし、深い思索をめぐらす元国立公園管理官(レンジャー)の西田正憲さん渾身のライフワークをまとめた一冊。紀行文、風景画、現代アート、環境文化、景観保護、自然観光などの幅広い風景文化から、暮らしと美をつなぐ物語をつむぎだし、独創的な風景論を展開している内容。成熟した現代社会の重要なテーマ、つまり風景の根源的問題を考えさせられる労作である。
<目次>
はじめに―風景の記憶と物語
第1章 自然景の変遷
第2章 風景の日本近代
第3章 大自然へのまなざし
第4章 風景の政治学
第5章 自然地域に展開する現代アートの風景
第6章 新たな風景の生成
第7章 自然の風景論
おわりに―東日本大震災の風景論
西田正憲
1951(昭和26)年、京都府生まれ。京都大学農学部林学科卒業(造園学専攻)、同大学院修士課程修了後、75年、環境庁(現環境省)入庁。北海道、山陰、東京、九州、山陽、京都に勤務し、全国の国立公園の管理に従事。81年には米国内務省国立公園局・ミシガン大学主催の国立公園等自然保護区国際セミナーに参加。88年、阿蘇くじゅう国立公園在任中に発病、2年間入院し、90年、岡山で社会復帰。その後、研究にうちこみ、96年、瀬戸内海の風景論で農学博士(京都大学)。98年、田村賞(国立公園の父田村剛にちなむ賞)受賞、99年、日本造園学会賞(研究論文部門)受賞。2000年、奈良県立大学地域創造学部教授、現在に至る。専門は景観論、環境文化論、自然観光論。技術士(環境)。著書に『瀬戸内海の発見』(中央公論新社)、『ランドスケープ空間の諸相』(共著 角川書店)、『瀬戸内国際芸術祭2010』(分担 美術出版社)などがある。


