きのこの自然誌 / 著者・小川真 / 山と渓谷社
魅惑のきのこ
実家で生活していた時からきのこ料理というか、料理には何かしらのきのこが混ざっていた。椎茸はもちろん、しめじにえのき、舞茸、そして年に一度の秋の季節には松茸なども食卓を彩った。焼きそばにしめじが入るくらいだからなかなかなものだろう。というのも母が信州・上田出身ということもあってきのこ類は料理には欠かせないエッセンスとなっていたわけだ。
テレビなどできのこ採り名人などの特集が組まれると、話題は祖母の話にどうやら相当な腕前だったらしく、山の中に一緒にきのこ採りに行っても気づくと祖母はどこかに消えてしまうらしく、どこかに採りに行ったのだろうとしばらく時間が過ぎると、籠いっぱいにきのこを入れて山の中から戻ってくるのだそう。どうやらきのこがよく生息する場所を熟知していたようなのだが、親族とて娘となる母とてその在処は結局誰にも知らされることなく迷宮入りしてしまったのだ。
信州に移住してからは尚更、私たちの食卓にはきのこが並ぶ。息子も離乳食の次にきのこを食べたくらいできのこはなんであれバクバク食べてしまう。ここに居る限りきのこ談義に花が咲きそうなものである。
さて、本書『きのこの自然誌』は伝説のきのこ博士と言われた小川真さんが、身近ではあるもののその生態系については謎が多いきのこについて描かれたエッセイだ。
つくばの研究所に向かって下駄をはいて自転車をこぐ白髪頭の姿が度々目撃され、世界中の誰よりもきのこに詳しかった小川さん。筆力の高さに定評があり、ときには筆をとってニコニコときのこの絵を描いていた童心や探究心が一冊に。
ぜひきのこ談義のお供にしたい一冊だ。
<目次>
新装版によせて
1きのこの形、きのこの成長
雷の落とし子/天地無用/ユダの耳/きのこに根はあるか/異常気象とショウゲンジ/マツタケ前線は南下する
2毒きのこ、薬になるきのこ
ひそやかな光/笑うきのこ/きのこ殺人事件/聖なるきのこ/ものは使いよう/ありがたいきのこ
3胞子の世界
産めよふやせよ/ひと夜の命/くさい奴/運び屋のナメクジ/お腹を空かしたチップモンク/ブタの好物
4菌糸・菌根のこと
城をきずく/山が吹く角笛/生きている化石/靴のひも/ぶくりょうつき
5きのこの栄養のとり方
シメジあれこれ/ランに食われる/落葉を食べる/由緒正しいヒラタケ/居候/きのこ糞尿譚
6きのこの分布・きのこの生態
きのこ狩り/コスモポリタン/追われるハツタケ/ヒョウタンから駒/クリのポックリ病
おわりに―きのこと菌類学
解説 藤井一至
小川 真
1937年、京都生まれ。
1962年に京都大学農学部農林生物学科を卒業、1967年に同大学院博士課程を修了。
1968年、農林水産省林業試験場土壌微生物研究室に勤務、
森林総合研究所土壌微生物研究室長・きのこ科長、関西総合テクノス、
生物環境研究所所長、大阪工業大学客員教授を歴任。農学博士。
「森林のノーベル賞」と呼ばれる国際林業研究機関連合ユフロ学術賞のほか、
日本林学賞、日経地球環境技術賞、愛・地球賞、日本菌学会教育文化賞受賞。
2021年、没。