私の好きな孤独 / 著者・長田弘 / 潮文庫
『孤独』には二種類あるのではないでしょうか。
一つが天涯孤独というように、自分一人にさせられ何やら寂しい感情を想起させるようなマイナスのベクトルのもの。もう一つが自分の内面性と向き合い、その感情や感覚に手を差し伸ばして触れ、新たな視点や発見があるるようなプラスの孤独です。
詩人の長田弘さんのエッセイ集でもある本書は、後者の孤独のことを言っているのだと思います。巻末に書かれている『おぼえがき』にも『孤独がもっていたのは、本来はもっとずっと生き生きと積極的な意味だった』と『森の生活』を著した思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの遺した言葉を引用してそれらの真意を顕にしています。
長田さんの感情や情景を想起させる巧みな言葉遣いにより、日々の付きあい、なりわいの内にひそむ明るい孤独と静けさのなかへみずから入ってゆく、エッセイ=散歩のような一冊です。
長田 弘
1939年、福島市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。詩人として活躍。1982年、『私の二十世紀書店』で毎日出版文化賞、1998年、『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞、2000年、『森の絵本』(絵・荒井良二)で講談社出版文化賞絵本賞、2009年、『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞、2010年、『世界はうつくしいと』で三好達治賞を受賞。NHKのEテレ『視点・論点』出演や、読売新聞・東京新聞(中日新聞)での連載も好評。