日本の名作住宅 エレメント&ディテール / 著者・小泉隆、松野尾仁美、福山 秀親、信濃康博、吉村 祐樹、近藤岳志 / 学芸出版社
暮らしの心象風景
日本人のこころの中には、誰しもが形は異なれど自然の風景があるのではないだろうか。どこかの田園風景だったり、川のせせらぎ、海がさざめく音など、自然と聞いてイメージする風景は人それぞれ多種多様なのだ。そうしたイメージ上の違いは、実際に住まう場所の環境ひとつとっても同じこと。暑いところもあれば寒いところだってあるし、湿気がある場所も乾燥している場所もある。それが自然のことと割り切って終えばそれでおしまいなのだが、日々の暮らしの中で眼にし、体全体で感じる感覚が心象風景を作り出すとするならば、自然環境と生活空間の環境との繋ぎ目となっているのが建築なのだと感じられる。
多種多様な自然の風景がそこにあれば、繋ぎ目となってくる建築の在り方や様相もその都度工夫もそれぞれに必要なはずなのだけれど、近代化が進んできた大量消費、大量生産型の社会の中では、ハウスメーカーなどの都合や彼らのビジネスロジックにより、通り一辺倒な規格化された間取りや素材でできた建物が多く立ち並んできた。けれどそうした時代の変化や荒波の中でも自身の建築哲学を信じ形にしてきた建築家たちは確かにいたのだ。
効率化を目指し過ぎた現代社会構造の転換が起こり始めている今、こうした先人の建築家たちが自身の哲学を持って形にしてきた建築が再評価され始めてきている。私たちはその建築に散りばめられた細かなこだわりやディテールやエレメントから、建築家たちが残してくれたメッセージを丁寧に読み解いていく必要があるのではないだろうか。現代という時間を経て、未来の私たちは一体どんな心象風景を残して歩んでいくのだろうか。
本書『日本の名作住宅 エレメント&ディテール』は80のディテールから読む、巨匠8人の設計術がまとめられている。
藤井厚二、アントニン・レーモンド、吉田五十八、坂倉準三、前川國男、吉村順三、西澤文隆、清家清らが追求した住宅のディテールを集めた作品集。外構/玄関・廊下/内部空間/庭/窓・建具/暖炉/家具・照明等のエレメントを切り口に、300点以上の写真・図面で紹介。巨匠のデザイン手法に住宅設計の手がかりを探る一冊。
【目次】
はじめに
イントロダクション 日本の名作住宅から見えてくるもの
登場する建築家と住宅作品
藤井厚二:聴竹居
アントニン・レーモンド:井上邸、足立別邸
吉田五十八:四君子苑、猪股邸
坂倉準三:飯箸邸
前川國男:前川國男自邸
吉村順三:園田邸、脇田邸
西澤文隆:平野邸
清家清:私の家、保土ヶ谷の家
年表
外構
期待感を高めるアプローチ│前川國男自邸
トンネルのようなアプローチ│飯箸邸
分岐するアプローチ│猪股邸
高台へのアプローチ│聴竹居
斜めからのアプローチと居間の張り出し│保土ヶ谷の家
ピロティを介したアプローチ│脇田邸
植栽により演出された外部空間│園田邸
1枚の壁で構成された渡り廊下│四君子苑
カーブする縁側│足立別邸
パティオとガラス屋根│井上邸
緑青の水切りによるアクセント│前川國男自邸
伝統・文化を感じさせる庇と張り出し│飯箸邸
外壁コーナー部の納まり│聴竹居、井上邸
玄関・廊下
石敷の寄付土間│四君子苑
水路上の内玄関│四君子苑
小さな前庭と玄関│平野邸
板敷の玄関ホール│猪股邸
茶室への渡り廊下│猪股邸
廊下の煉瓦壁│平野邸
内部空間
丸太の架構と開口部│井上邸
居間の架構と建具│平野邸
多様な活動を受け入れる吹抜けの居間│前川國男自邸
居間北側のダイニングスペース│前川國男自邸
客間のコーナースペース│飯箸邸
多彩な仕掛けが施された音楽室│園田邸
窓辺のソファコーナー│園田邸
庭と居間を一体化させる試み│私の家
つながりながら区切られた居間と食堂│保土ヶ谷の家
樹木に包まれた居間│保土ヶ谷の家
中庭・坪庭
庭と諸室の有機的な構成│平野邸
坪庭と開口部│猪股邸、四君子苑
池上の広縁│四君子苑
窓・建具
内外のつながり方を調整できる4枚の大扉│飯箸邸
視線を庭へと誘導する開口部│猪股邸
柱が除かれた居間コーナー部の大開口│四君子苑
新旧が融合する下の間・上の間│四君子苑
コーナー部が開放された縁側│聴竹居
柱心からずらされた建具│足立別邸
庭へと開放された書斎コーナー部の開口│猪股邸増築部
居間を見下ろす開口│飯箸邸
空間に浮遊感をもたらす居間の開口部│園田邸
居心地の良さがデザインされた窓辺│脇田邸
縁側の水平連続窓と換気用小窓│聴竹居
障子が取り付けられた居間の高窓│井上邸
風と緑を取り込む居間の換気窓│保土ヶ谷の家
光のグラデーションを生み出す雪見障子と欄間│四君子苑
質の異なる光を取り入れる和室の窓│猪股邸
暗がりに浮かぶ閑室の地窓│聴竹居
多彩なスリット窓│平野邸
屋根に突き出た四つの天窓│平野邸
期待感と空間の印象を高める回転扉│前川國男自邸
四分の一円の開口を持つ食事室の間仕切り│聴竹居
壁の中に収納できる襖│四君子苑
隠すための建具│聴竹居、前川國男自邸、四君子苑
和紙が重ね貼りされた引き手│足立別邸
暖炉
居間の中核をなす黒の暖炉壁│飯箸邸
空間を統べる暖炉│脇田邸
表情が異なる二つの暖炉│井上邸、足立別邸
ソファコーナーの小さな暖炉│園田邸
造作家具
平面形に合わせてデザインされた家具│脇田邸
台所の独立性を示す家具│脇田邸
食事を彩る小さな配膳口│前川國男自邸
機能性に優れた配膳カウンター│足立別邸
浮遊する棚│私の家
居間と廊下を緩やかに区切る収納棚│井上邸
寝室のボックス棚│足立別邸
パティオのボックス棚│井上邸
開口部が設置された読書机│聴竹居
置き家具・照明
移動可能な畳│私の家
状況に合わせてデザインされた肘掛け椅子│聴竹居
方位と格子パターンが一致する照明│聴竹居
効率よく光を送る照明│聴竹居
大きさが異なる三つの円形照明│聴竹居
聴竹居の家具と照明│聴竹居
天井に組み込まれた照明│四君子苑、猪股邸
操作性の高いベッドカウチ│井上邸
参考文献
おわりに